熱式マスフローコントローラー(MFC)のユーザーから、「MFCも流量出力は変化が無いのに、どう考えても流量がずれているように思えるのですが・・・」という問い合わせを頂く事があります。
一つの原因はゼロシフト、もう一つの問題は分流比の変化から生じます。

本来ある一定の分流比であったセンサー管とバイパスとの流量比が崩れると、どうなるのでしょうか?
ここで今回の解説の主題である「S.V.=P.V.の状態であるにもかかわらず流量異常が発生する」につながるのです。
例えばバイパスに異物が詰まって流れが悪くなった場合、仮にセンサーに10SCCM流れた場合、層流素子には90SCCM流れるから、流量は100SCCM流れているはず・・・という当初の設定が、センサーに10SCCM流れていても、層流素子に80SCCMしか流れなければ、P.V.上では100SCCMでも実流量は90SCCMしか流れていないという現象が発生してしまいます。
(実際は分流比が変化するので、こんな簡単な足し算ではありません。あくまでイメージとしてお考え下さい。)
配管のどこかでシラン系ガスが酸素と反応してSiO2の白い粉が発生し、それがMFCに流れ込んだ場合や、コンプレッサーからの圧縮空気の水分や異物がドライヤーやフィルターで除去しきれずにMFCへ入り込みバイパス部分にそれらが残留してこういった現象が生じやすいです。 

 
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センサーに異物が詰まって流れが悪くなった場合、この傾向は反対になります。
流量信号<実流量という異常を起こします。
MFCでは流量信号を元にバルブ開度を制御しているので、流量が多く流れてしまう現象が生じます。
この流量が過大に流れるとう現象は、過少に流れるよりも大きなトラブルを起こす可能性があります。(アセチレンバーナーで危うくユーザーが火傷しかけた事例を以前連載で紹介したかと思います。)

この現象は特に塩素ガスを用いるMFCで頻出します。
半導体製造装置のドライエッチャーで塩素を使いアルミ配線をエッチングする工程で使用されるMFCは、この問題に悩まされ続けてきました。
塩素ガス自体はマスフローの接ガス材質であるSUS316Lに対して腐食性を持ちません。
でも、水分と一緒になると塩酸(HCl)となり、激しい腐食を引き起こす性質があるのです。
水分といっても、塩素ガスラインへ水を入れたりする配管を意図的に組む人はいませんよね?
問題は配管に残留する微量な水分なのです。
研磨された平滑な金属面ならば良いのですが、少しでも凹凸があると、その凹みに入り込んだ水分は、真空引きやベーキングを行ってもなかなか除去できません。
そこに塩素ガスを導入し、しばらく使い続けると、そのくぼみの部分から腐食が始まってしまうのです。
そして、その腐食により異物が生成され、センサーチューブが閉塞してしまい、分流比の変動が生じてしまいます。
設定している塩素の流量よりも、いつの間にかかなり多めの流量が流れてしまっていたので、プロセス上は大変な事態が生じてしまうのです・・・怖いですね。

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