もう一つのMFC千夜一夜物語である日本工業出版さんの「計測技術」誌 2017年9月号(8/25発売)掲載「マスフロー千夜一夜物語<質量流量計の基礎>」連載第37回、“マスフローコントローラ(MFC)のトラブルシューティングの解説<後編>”となっています。
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<mini CORI-FLOW 出典:ブロンコスト・ジャパン(株)>

半導体プロセスで液体用マスフローを用いた気化供給システムにコリオリ式マスフローを投入する事のメリットをご説明してきました。
では、ガスの制御はどうでしょうか?
半導体プロセス装置では圧倒的にガスの流量制御に使用されるMFCが多いことは、皆さんもご存知ですね。エッチャーやCVD装置で1チャンバーに5~10台のMFCが使用されます。
それと比べると液体材料の制御は3系統@1チャンバーあればいいところで、プロセスにより使用数0のチャンバーも当然あります。
“コリオリが完全無欠の質量流量計(マスフロー)なら、ガス用でも従来の熱式より良い性能が出せるんですよね?”というご質問を皆さんから頂きそうです。
性能を何で表すか?という際に、精度性能を持ち出すのはあまり意味が無いのですが、カタログスペックを比較すれば、圧倒的にコリオリの方に軍配が上がります。
それよりも一番優れているのはコリオリの最大の特長である“流体の物性に左右されず質量流量測定が可能”がやはり大きな持ち味になります。
熱式MFCではコンバージョンファクター(CF)の信憑性が、精度性能などは吹き飛ばしてしまうくらいの実ガスでの流量誤差につながっているのは、最終顧客である半導体メーカーから指摘されており、近年SEMI JapanのTF (タスクフォース)でもMFCの実ガスでの流量性能が議論されています。
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熱式流量センサーの流量式では比熱がその傾きを決めていますが、ただそれだけではなく補正係数が必要になるガスが存在します。校正ガスに使用する窒素よりも重いガスでそれは顕著です。また、そもそもマスフローのCFは不活性ガスであっても、温度・圧力・流量(というか流量に応じたマスフローの分流構造の差=層流素子の形状の差)で必ずしも1ガスに1CFとはなりません。そういったCFの抱える問題を解消するのは、熱式では難しいとDecoは考えています。

それではCFが存在しないコリオリ式マスフローで、測ってみてはどうだろうか?
CF4というガスを例に、ブロンコスト・ジャパン(株)のWEBで展開しているサイジングツール=FLUIDAT® on the Netで計算してみました。
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300SCCM (CF4の質量流量 0.071kg/h を 0℃ 1013hPa基準の体積流量に換算)した場合のトータルエラー(精度 + ゼロ点の安定性 で提示される)の値は、このレートで±0.5282%Rであり性能として熱式MFMをはるかに上回っています。
ところが、測定に必要な圧力条件は入口圧0.4052MPa、出口側大気開放であるから、約0.4MPa(d)もあることになります。
これは同じレンジの熱式MFMと比較すると、かなり大きな値ですね?

センサーのSN比が良い状態なら、ゼロ点の安定性は高くなり、結果トータルエラーは小さくなります。
それは非常に良い事なのですが、コリオリ式の場合、センサーのSN比が良い状態はセンサーチューブで発生するコリオリ力が大きい時、すなわち高い密度の流体が流れている時=チューブの圧力損失を大きな状態になるのです。
これは密度の高い状態である液体の場合には、さほど問題になりませんが、気体の場合は実用上、少し困ったことになるのです。
因みにこのチューブのモデルの最大流量時のデータは以下になります。

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844.7SCCMを測定した場合、トータルエラーは0.51%R しかし圧損は1.3MPa(d)という値になってしまいます。

センサーチューブを細く小さく作るという難度の高い技術である微小流量用コリオリ式マスフローのパイオニアであるブロンコストだから、まだこういった値で済んでいるので、本来ガスを測定するには、大流量高圧がコリオリの担当分野でした。
(水素スタンドの充填圧は70MPaですが、コリオリ式流量計が使われています。)
逆にいえば今までなかった可能性が見えてきたのが、ブロンコストのminiCORI-FLOWで、この製品を見るまではDecoは“半導体用プロセスガスをコリオリで測れるわけがない派”でした。(勝手に作って、勝手に脱退して、すみません・・・)
まずは今の熱式マスフローの実ガス流量基準器としてコリオリ式を使うというのが、ファーストステップだと考えています。
この分野の進展は、Decoのライフワークともいえる分野ですので、都度ブログや計測技術誌の連載でお知らせしていきますね。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan