もう一つのMFC千夜一夜物語である日本工業出版さんの「計測技術」誌 2018年2月号(1/25発売)掲載「マスフロー千夜一夜物語<質量流量計の基礎>」連載第42回は、熱式流量センサーを用いる際のキーワードとなる“コンバージョンファクター(CF)”に関する解説記事です。

さて、マスフローコントローラ(MFC)&マスフローメーター(MFM)の最大のトラブルは、センサーチューブとバイパス(層流素子)の分流比が何らかの原因で初期値より変化することなのですが、特に注意すべきアプリケーションとして、コンプレッサーやブロアで大気を吸引して押し込む場合、または吸引ポンプで大気を捕集する場合、いずれも大気という我々が生活している空間に存在する空気(ボンベで販売されている“乾燥空気“とは異なります。)をマスフローへ導入する場合のご説明を前回は致しました。

今回はマスフローの内部で反応して異物を生成するガスの場合です。
これらの反応性の高いガスは、半導体製造装置でプロセスガスとして多く用いられるものが多いです。
代表例では塩素(Cl2)が挙げられます。
塩素はドライガスの状態では、マスフローの接ガス材質であるSUS316に対して腐食性を持ちませんが、水分と一緒になると塩酸(HCl)となり、激しく腐食を起こします。
ドライエッチャーで塩素を使いアルミ配線をエッチングする工程で使用されるMFCではこの問題が、長く問題となってきました。
水分といっても、塩素ガスラインへ水を入れたりする配管は誰も組みません。
問題になったのは、配管に残留する微量な水分です。
研磨された平滑な金属面ならば、良いのですが、少しでも凹凸があると、そのへこんだ個所に入り込んだ水分は、真空引きやベーキングを行っても飛んでいってくれない事があります。
そこに塩素ガスを導入し、しばらく使い続けるとそのくぼみの部分から腐食が始まってしまうのです。
そして、その腐食により今回問題になっている異物による分流比の変動が実際生じていました。
設定している塩素の流量よりも、いつの間にかかなり多めの流量が流れてしまって、プロセス上は大変な事態が生じているのに、MFCの流量値=設定値のままで変動していなかったので、装置側のインターロックもかからず、そのまま不良を生産し続けてしまう問題が生じたのです。

「いやいや、今の半導体製造装置はウルトラクリーンな配管構成が徹底されているので大丈夫でしょう!」というご意見もあるかと思いますが、マスフローの構成部品の中にはそうでもない箇所があります。
狭い流路で平滑に仕上げるのが難しそうな場所・・・そう、ここです。
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今回ご説明している分流構造のマスフローのセンサーと層流素子(バイパス)ですね。
内径1mm以下のキャピラリが集まる場所です。
バイパスは一部構造を狭い流路のキャピラリ方式でなくしたものもあります。
ですが、センサーチューブはどのメーカーも大きくは変わりません。センサーチューブの内径は、細いメーカーで内径0.35mm、太くても0.8mm程度とDecoは記憶しています。
この径のステンレスチューブの内面研磨、表面処理に関しては、decoも現役時代色々とやりましたが、なかなか上手くいきません。
センサーチューブ内面研磨処理仕様は、まだメディカルで使用する注射針の要領で中空糸研磨という方法があります。
分析装置メーカーのお客様から教えを請い、そちらの外注先を紹介いただき、センサーチューブの研磨試作をお願いしたりと、色々工夫をしました。
ですが、電解研磨はお手上げです。
正確に言えば電解研磨や表面処理をすることはできますが、確実にそれらが行えているかを検証する方法が無いのです。
しかもセンサーチューブは、本来ステンレスの直管で、それらの処理をしてから、逆U字に曲げます。
となると、曲げ部の内面の状況は・・・・ですよね。

また、センサー部は熱式流量センサーの要であり、通電時は常に80~100℃の熱が加えられています。
塩素ガスが残留した水分と反応するのには、温度が高い方が良いので、温度環境的にも腐食が発生しやすい箇所なので本当に参りました。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan