EZ-Japan BLOG since 2017 真・MFC千夜一夜物語

EZ-Japanブログは、真・MFC千夜一夜物語という流体制御機器=マスフローコントローラ(MFC)の解説記事をメインに、闘病復帰体験、猫達との生活が主なコンテンツです

真・MFC千夜一夜物語(第2期)

真・MFC千夜一夜物語 第427話 MFCの歴史を振り返ろう その3

マスフローコントローラ(以下MFC)の歴史に関して振り返っていきたいと思います。
DecoがMFCメーカーから離れ、一介のコンサルタント、エヴァンジェリストとして働き始めてからもう10年になります。
これを期にMFCという不思議な工業製品の技術動向をその歴史を俯瞰しながらまとめて行きたいと思っています。

MFCの熱式流量センサーのオリジンであると思われる熱線式風速計のお話をさせて頂いてます。
なみにこの熱線式風速計の原理を直接流量計に応用した製品として、インサーション型熱式流量センサーが挙げられます。
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分流構造を持つ巻線型熱式流量センサーと比較してスルーフロー構造であることが幸いしいて、圧力損失増大、異物侵入や、圧力条件の変動での分流比が崩れることによる再現性能低下という問題が生じにくい特性があります。
つまり、少々汚れた流体を流す用途や、低圧力損失で大流量を流す用途には最適な方式なのです。

逆にこの方式の弱点としては、流体を選ぶ点が挙げられます。
特に軽い水素やヘリウムの場合、測定構造が仇となり、センサーが設置されている流路中心部をパスしていくような必ずしも適切な流れを生成できないので流量測定が正確に行えないことが挙げられます。
1990年代以前は、アナログ回路でしか直線性補正を行えなかった為、直線性が悪いこと=レンジアビリティが狭い事も問題視されていましたが、現在ではデジタルによる多点補正機能の採用で、実用上では大きな問題が無くなっていいます。
ただ、それでも分流型熱式流量センサーを搭載した流量計よりは、ラフな精度仕様で定義されることが多いのは確かです。
 D-6440
 
インサーションタイプ熱式流量センサー搭載 MASS-STREAMシリーズ
出典:ブロンコスト・ジャパン(株)

あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

真・MFC千夜一夜物語 第426話 MFCの歴史を振り返ろう その2

マスフローコントローラ(以下MFC)の歴史に関して振り返っていきたいと思います。
DecoがMFCメーカーから離れ、一介のコンサルタント、エヴァンジェリストとして過ごして10年になります。
これを期にMFCという不思議な工業製品の技術動向をその歴史を俯瞰しながらまとめて行きたいと思います。
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ピトー管式風速計に対して熱線式流速計の原理は上図にあるように、キングの式を基にして熱線からの放熱量と風速のバランスから流速を導き出しています。
熱線式流量計は高いSN比と応答性能を特長としています。
熱線部に細径の白金線等を使い、それを流れ場に金属の支柱で曝し、細線に電流を流すと発熱が生じます。
加熱された金属線は流体の速度が上がれば上がるほど、冷却されますね?
金属は高温となると抵抗値が大きくなる傾向があるので、流速の変化に応じて生じる抵抗値の変化を捉えれば流速を測ることが可能になるのです。
熱線式というネーミングは、この金属の細線を発熱させることから来ています。
抵抗値が変化したら、その分電流量を変化させる方式です。

これに対して現在の熱線式風速計では熱線の温度を常に一定にする=金属線の抵抗値を一定に保つ定温度方式が主流となっています。
回路上は複雑になりますが、フィードバック制御のおかげで応答性能が向上する利点が大きいからです。
この定温度型熱線式流速計の基本回路は下図のような構成です。

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熱線はホイットストンブリッジの抵抗としてバランスをとっている為、ブリッジに加える電流量を変化させることで、常に一定温度に熱線を維持するフィードバック回路となります。
熱線式流速計は流れ場の物性値が一定ならば正しい流速値を示します。
逆に流速が一定ならば物性値の変化を示す事も可能な流速計です。
その為、周囲温度変化には当然左右されてしまいます。
この問題には温度補償回路を設けることで対応が可能になりました。
ブリッジ回路に温度補償用の測温抵抗体を追加することで、流体の温度変化によって生じる抵抗値変化を用いた温度補償を行っているのです。

熱線式風速計はその性格上、ブリッジ回路から出力される電圧信号と流速の関係は絶対的なものではなく、あくまで相対的なものです。
従って必ず校正が必要になります。
ピトー管等の流体の物性値に左右されない測定式を利用した流速計をリファレンスとして検量線を引いて運用されることになります。
今まで解説してきたMFCの熱式流量センサーと類似性があることに気づかれましでしょうか?
 
【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

真・MFC千夜一夜物語 第425話 MFCの歴史を振り返ろう その1

今回からマスフローコントローラ(以下MFC)の歴史に関して振り返っていきたいと思います。
このブログも425回目です。
ここまでお読みいただいている読者の皆様には大変感謝しております。
DecoがMFCメーカーから離れ、一介のコンサルタント、エヴァンジェリストとして過ごして10年になります。
これを期にMFCという不思議な工業製品の技術動向をその歴史を俯瞰しながらまとめて行きたいと思いました。
MFCが使われるようになって半世紀以上が経過し、今、MFCに触れる世代は当たり前のようにMFCで流量制御を行っていると思います。
しかし、MFCの成り立ちや本質に関して理解している世代は、既に一線から退いてしまわれているのが現状です。
色々な事情から、先人達の貴重な知識の伝承が、次世代へ確実に行われているとは言い難いように思います。
こういった状況下で、Decoが経験してきた様々なMFCに関する知見を次の世代に伝える事を使命にこのブログを始めました。
少しでも皆様のお役に立てれば、幸いです。
 
まずは、MFCの要である流量センサーの歴史からです。
熱式流量計で用いられている流量センサーのオリジンは熱線式風速計ではないかとDecoは考えています。
流れを知るには流体の圧力、流速を捉える必要があります。
特に流速で使用される流速計では風車のようなベーン式、レーザー式、超音波式等がありますが、その中でも実用化が早かったのはピトー管式です。
ピトー管は飛行機の先端や翼端に設置されていて、速度計として使用されています。
過去にこのピトー管の閉塞で痛ましい事故が何度も生じたことがあるくらい、ジェット機にとっては命ともいうべきセンサーなのです。
ピトー管式の測定原理は下図にある通りです。

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流体の圧力(全圧)はベルヌーイの定理から動圧と静圧の総和です。
このとき動圧p(全圧‐静圧)は流速uの二乗と比例関係にあることを利用して流速を導き出します。
ただし流速の二乗に比例するというこの流量式、そして差圧を測定するデバイスの性能上、流速の低い領域を苦手とする傾向があるのです。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan


真・MFC千夜一夜物語 第424話 MFCの応答性能 その6

章を改めて巻線型熱式流量センサーを搭載したマスフローメーター(MFM)の応答がマスフローコントローラー(MFC)のそれよりも決して早くはない理由のお話です。
流体に腐食性ガス、毒性、可燃性ガスが多い半導体製造分野では、やはり流体に非接触である巻線型流量センサーが好まれます。
しかし、流体に直接触れない巻線型は応答性の面で不利な方式です。
巻線型流量センサーを搭載したMFCはどうやって応答性能を向上させたのでしょうか?
前回のお話で、流量信号の応答性を良くする方法を検討しましたが、そもそも応答性能1秒以下などという仕様に到達できる程、熱の移動を捉える熱式流量センサーは速くはなりません。
 そこで考えたのは、先に流量制御バルブを動かし始める方法でした。
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どういう意味かというと、これは当然MFCに限られます。
MFCは入力された流量設定信号(以下S.V.)に基づき流量制御を行います。
原則的には流量信号(以下P.V.)とS.V.が一致するように、流量制御バルブを駆動する操作量(以下M.V.)
を可変させているのですが、P.V.が遅いという条件下ではこれをやっていては、高速流量制御はとてもできないですね?
そこで応答時には少し工夫をします。
具体的にはM.V.の波形を補正するのです。
ここからはDecoの推測した方法です。
(必ずしも全てのMFCメーカーがやっている訳ではありませんし、メーカーにより色々なアプローチもありますので、あくまで一例です。) 
“MFCはPID制御をしている”のが前提ですが、応答時は実はPIDでは制御せず、MVに予めSVを何分割(下図は仮に3分割 50/80/100)したステップを踏ませて立ち上がりを制御させます。

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意図的に流量を流し始める事で実際の熱式流量センサー信号レベルでの立ち上がりよりも速く流量制御を高速でやってのけられるようにしているのです。
当然この芸当はMFMではできません。
だから巻線型熱式流量センサーを搭載したMFMの応答がMFCのそれよりも決して早くはないという現象が生じるのです。
これに関してはPIDシュミレータで同じような制御を行わせる為の波形も作ってもらって検証してありますので、興味を持たれた方は講習会などでDecoに聞いてみて頂いても結構ですよ。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan


真・MFC千夜一夜物語 第423話 MFCの応答性能 その5

章を改めて巻線型熱式流量センサーを搭載したマスフローメーター(MFM)の応答がマスフローコントローラー(MFC)のそれよりも決して早くはない理由のお話です。
流体に腐食性ガス、毒性、可燃性ガスが多い半導体製造分野では、やはり流体に非接触である巻線型流量センサーが好まれます。
しかし、流体に直接触れない巻線型は応答性の面で不利な方式です。
巻線型流量センサーを搭載したMFCはどうやって応答性能を向上させたのでしょうか?

下図のように実際の流量に対して、巻線型流量センサーのブリッジ回路から得られる生の信号は遅れて出力されます。(あくまで遅れのイメージを説明する為の図ですので、あえて実流量を理想的なステップ応答波形にしていますが、実際はガスではそうなりません。)
この流量信号を用いて設定信号と比較し、流量制御バルブ開度の制御を行えば当然制御が遅れる事になります。
応答性の1秒以内とかいうのは夢の世界なのです。
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このままではよろしくないので、センサー信号に図のような微分信号を加味する方法が考案されました。
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これによりセンサーの応答性は若干改善されるのですが、半導体製造装置、特にエッチャー等で要求された高速応答と言うレベルには至りません。
応答が遅いというのは、流量制御ではただ単にガスの導入が遅れるだけではなく、下手すると過大なガスが流れてしまっているのに、流量制御が間に合わず、そのまま放置してしまいかねないので危険です。
そこで考えられたのが、前回の解説で登場した図なのです。

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【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

EZ-Japan(イージージャパン)Deco こと 黒田です。 2014年6月開業です。流体制御機器マスフローコントローラーを中心に”流体制御関連の万(よろず)屋”として情報発信しています。 日本工業出版「計測技術」誌で”マスフロー千夜一夜物語”の連載中です。
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