マスフローコントローラー(以下MFC)の流量制御を司る流量制御バルブとそのアクチュエーターに関して再び解説していきましょう。
下図にあるような自動流量制御のフローで、調整計からの操作量(MV)でコントロールする自動制御弁がありますが、MFCでは流量制御バルブがそれに当たります。
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MFCに用いられる流量制御バルブに要求される特性としては、以下が挙げられます。
①高分解能であること
②電気信号で制御できること
③高速応答性能を持つこと
④禁油処理が可能な構造であること
⑤発塵を避ける構造であること
⑥1ml/minから100L/min、更にそれ以上の大流量対応が可能なこと

精密制御ができて、なおかつ高速で、オイル&パーティクルフリー、しかも微小流量から大流量・・・なかなかこれだけの要求を満たしてくれる便利な構造のバルブは世の中にはありませんので、用途に応じて各種流量制御バルブから選定する事になります。
MFCの流量制御バルブ第1号は、MFC黎明期の第1世代MFCに搭載されていた「サーマルアクチュエーターを用いた流量制御バルブ」です。
このバルブの構造は、下図の左にあたります。(本図はあくまで一般的なサーマルバルブの構造を説明する為の図ですので、特定の企業の発明物、技術を指す物ではありません。)
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本バルブは、一般的なニードルバルブと似通った構造を取っていて、ニードルが前進してオリフィスとのギャップを調整する構造です。
中央のアクチュエーター部は熱膨張係数の高い材質で構成されており、ヒーターが巻き付けてあります。
このヒーターを加熱すれば、アクチュエーターは膨張してニードルが伸びる方向に変形し、弁としては閉じる方向へ動きます。
このヒーターの温度を電気的にコントロールすれば、バルブの開度を制御できる仕組みです。
これはなかなか優秀な発想で、前述の要求をかなりクリアできました。

だが、このサーマルバルブには、特性上どうしても苦手とする項目がありました。
一つには高速応答性能です。
「熱して延ばす」、「醒まして縮ませる」という動作である為、高速でそれらを行う事は難しいのです。次に発塵に関しても、ニードルを押しつける構造上、硬度の同じ金属同士がぶつかることでパーティクルが発生してしまいました。
また、MFC二次側を真空に引いた際には、伸びたアクチュエーターを元の位置に復元させる力=ニードルを引っ張り上げる力が、真空に負けてしまい、最悪ニードルバルブがオリフィスに噛み混んだ状態で固着してしまい、ガスが全く流れなくなることもありました。

最後に、これは半導体製造装置用途で顕著になった問題なのですが、ヒーターで高温に加熱したアクチュエーター部が接ガスするため、高温で分解してしまうようなガスにも当然使用できなかったのです。
また一般工業向けでは大流量化が難しいという問題もありました。
大流量化=熱膨張アクチュエーターのストロークを伸ばさなくてはならないのですから、その難しさは想像がつくでしょう。

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