EZ-Japan BLOG since 2017 真・MFC千夜一夜物語

EZ-Japanブログは、真・MFC千夜一夜物語という流体制御機器=マスフローコントローラ(MFC)の解説記事をメインに、闘病復帰体験、猫達との生活が主なコンテンツです

ピエゾ

真・MFC千夜一夜物語 第386話 流量制御バルブとアクチュエーター その6

2023年始まって初めての真・MFC千夜一夜物語となります。
マスフローコントローラー(以下MFC) の流量制御を司る流量制御バルブとそのアクチュエーターに関して再び解説していきましょう。
では、ピエゾアクチュエーターの真に優れた特性は何でしょうか?

それはやはりなのです。
ピエゾとソレノイドを比較すると、ピエゾは、ある電圧をかけることでで、結晶構造体が変位する(=逆圧電効果)性質を持ちます。
つまり「固体の変形」により「伸び縮み」するのです。
それに対してソレノイドは、電磁石の「磁界の強弱」でバルブプランジャー(可動鉄芯)を「動かす」のであり、しかもMFCの流量制御バルブの場合、開閉のどちらでもない中間点で「止め」なくてはなりません。
どこまで伸ばしても、あくまで固体であるピエゾと、磁界の中でプランジャーを浮かせて移動しているソレノイドでは、当然バルブに対して働く力には大きな差が出てしまいます。
(もちろんソレノイドが浮いていると言っても、板バネで磁力の向きと反対方向へ固定はされています。)

そしてもう一つが分解能です。
ピエゾはそもそも微少な変位量しかないのが特徴であり短所でした。
逆に言えば、微少な変位をするのは得意なのです。
それ故、精密にバルブ開度を調整できる分解能の分野でも、ピエゾはソレノイドには勝ります。

力があって、なおかつ精密な動きが得意なアクチュエーターであるピエゾをMFCで使うことの真の意味は、MFCのバルブを構成する上で大きなメリットになるメタルダイヤフラムバルブを形成できることです。
 
piezo_valve


このバルブ構造は、多種多様な腐食性、可燃性、毒性ガスを使用しなくてはいけない半導体プロセスガスには欠かせない構造です。
接ガス部を最小のボリュームにすることで、生成物による詰まり等の故障や外部リーク事故のリスクを減らすだけではなく、パージによるガス置換に要する時間もそれだけ早くなり、ターンアラウンドタイム(TAT)の短縮による、無駄の少ないプロセスを作り上げることができるのです。

MFCの流量制御バルブは流量センサーの出力と、設定流量信号入力が一致するように、バルブの開度制御を行うので、常にバルブは開度を細かく変化させています。
そういった流量調整機能には柔軟さが必要だが、対腐食性を考慮すると、樹脂製ダイヤフラムは使用できず、やはり金属製、それもSUS316L等の耐腐食性を持つ材料を使用したいのです。
しかし、そういったメタルダイヤフラムは、一様に堅い。
それを強い力で変位させ、維持し続け、更に常に外部条件(温度・圧力変動)や設定流量の変化に合わせ精密に開度を変える必要がありました。
ピエゾアクチュエーターは、こういったメタルダイヤフラムにうってつけのアクチュエーターだったのです。
SUS316Lより更によりしなやかさで、飛び移り座屈性能(スナップスルー)の良い材料として、日立金属(株)(現:(株)プロテリアル)が自社材料であるNi-Co合金ダイヤフラムYET101を使用した波形ダイヤフラム搭載MFCを開発したことで、ダイヤフラムに「分離目的とともに、可動しバネ役割をはたす」機能を実現しました。
ダイヤフラムがバネの機能を持つと言うことは、接ガス部にスプリングのような摺動部を置く必要が無くなり、パーティクル発生や、ガスの吸着が少ないシンプルバルブ構造を実現できたのです。
このことにより半導体プロセスガス用MFCのバルブは大きく進歩しました。
ピエゾアクチュエーター+メタルダイヤフラムバルブという組み合わせは、現在でも揺るがないほどエポックメイキングなものだったのです。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

真・MFC千夜一夜物語 第385話 流量制御バルブとアクチュエーター その5

2022年最後の真・MFC千夜一夜物語です。
マスフローコントローラー(以下MFC) の流量制御を司る流量制御バルブとそのアクチュエーターに関して再び解説していきましょう。

前回はソレノイドアクチュエーターを用いた流量制御バルブのお話でした。
これに対して、日本のMFCメーカー((株)堀場エステック、日立金属(株)、(株)リンテック)が採用しているのが、第3の方式となるピエゾアクチュエーター搭載型流量制御バルブです。
ピエゾとは圧電素子の一種で、ある結晶構造体に機械的圧力を加え変位させると、この圧力の大きさに比例して電圧を発生する原理(=正圧電効果)を応用していて、実際はこの逆で「ある電圧をかけることでで、結晶構造体が変位する(伸びる)」(=逆圧電効果)を利用しているのです。
変位量はナノメータレベルの微小な単位です。
これでは素子単体ではバルブは、ほんの少ししか動かないで、図にあるように複数を積層スタックすることで使用されています。
 41953c34.jpg
それでも機器に内蔵できるサイズのスタックでは、マイクロメーターオーダーしかストロークは稼げないのです。
故に決してストロークが必要な大きな用途で使用できる訳ではないのですが、その応答性能と何よりも発生力の大きさを評価され種々の産業機器に組込まれ様々な用途で使われています。

業界で最初にピエゾをMFCに組み込んで実用化したのは、日本のエステック社(現(株)堀場エステック)でした。
当初、ピエゾは湿度に弱く、ショートして機能喪失する事例も見受けられたそうです。
その為、信頼性でソレノイドに劣るイメージがあったのですが、スクリーニング工程の改良と、ピエゾを管封入する構造が開発されてからは、信頼性も向上、今に至っています。
前述のように日本のMFCメーカーのお家芸として、高速応答、高分解能、大発生力を謳い、MFCの技術進化の階段を一段登らせた技術あなのです。

日本ではピエゾがMFC用アクチュエーターとしてデビューして、品質が安定してきた時期に「ピエゾ搭載のMFCは応答性能が良い」というのがMFCに関して知識のある層で定説となっていたが、これは必ずしも正解ではない事は既に何回かこのブログで解説してきましたね?
正確な表現にするとピエゾアクチュエーターはソレノイドアクチュエーターより応答性能が速いというのは事実なのですが、MFCの応答性能として考えた場合は、ピエゾタイプMFCだからといって、必ずしもソレノイドタイプMFCより応答性が良いとは限らないという表現になります。
既に何度も解説しているので、ブログ読者の皆さんも理解頂いているかと思います。
MFCの応答性能はバルブのアクチュエーターだけで決まるわけではないからっですね。
熱式流量センサー、特に一般的な巻線タイプ熱式流量センサー自体の応答性能が、ソレノイド、ピレゾ両アクチュエーターよりもはるかに遅い為に生じる問題です。
つまりMFCの応答性能を律束しているのはアクチュエーターではなく、流量センサーなのですね?その証拠に直接ガスに接触するMEMSタイプ熱式流量センサーは同じ熱式でも応答が速い事は知られています。
それとソレノイドバルブの組み合わせたMFCが、巻線型流量センサータイプとピエゾの組み合わせよりも安定した高速制御が出来ているのをDecoは見知っています。

次回更新は2022年1月10日(火)となります。
では、皆さん、良いお年をお向け下さい。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

真・MFC千夜一夜物語 第326話 MFCの応答性 その2

前回はマスフローコントローラー(MFCの応答性に関する定義をご説明しました。

比較する物差しが同じでないと意味がありませんからね。

それでなくてもMFCの応答性というスペックは、色んな誤解を生じてきたのです。

今でも顧客さんとお話ししていると言われるのが、「このMFCはピエゾアクチュエーターを積んでいるから、応答が速いですよね?」という認識です。

これは×ではありませんが、必ずしも〇ではりません。

MFCの応答性を構成している要素を下図に示します。

 

201020_01



 ここでは熱式流量センサーを搭載したMFCをモデルとしています。

上流/下流で対になった流量センサーの配置された細いパイプへ分流された流体が流れ込み、上流の熱が下流へ移動をします。

その量をブリッジ回路で取り出して流量へ換算します。

換算するというのは、温度補正や直線性などの各種補正も入るという事です。

最近のデジタルMFCではセンサーからの微細なアナログ出力をADコンバーターでデジタル信号へ変換してから行われます。

201020_02

こうして流量信号(PVとして出力された信号は、制御回路にある調整計(PID制御回路等)で外部からの流量設定信号(SVと比較・判断され、SV=PVとなるように、バルブ操作量(MV)が決定し、アクチュエーターに向かって指示されるのです。

 201020_03

 

 

ここまでお話ししてくるとお判りいただけるのですが、アクチュエーターの応答性の勝負はこの最後のMV値が設定・可変されてからなのです。(一番上の図で赤い点線で示した部分)


故に
MFCの応答性能はアクチュエーターへの依存は少ないことがわかりますね?

たしかに単体比較ならば、ピエゾアクチュエーターはソレノイドより速いのですが、MFCの応答性を問うならば、当然MFCというパッケージで考えないといけないという事なのです。

 

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

アクチュエーターの性能の違いが、MFCの決定的差ではないということを教えてやる!

MFC豆知識のコーナーです。

前回と違って、えらく長いタイトルですが、某ロボットアニメの赤い人のセリフ モビルスーツの性能の違いが、戦力の決定的差ではないということを教えてやる”のパロディです。

191129_01

よくこのMFCはピエゾだから応答が早いという話をされるお客様がおられますが・・・
間違いではないけど、正解でもありません。
確かに第1世代のサーマル(=熱膨張式)アクチュエーターと比較すれば早いでしょうが、そもそもMFCの応答性能はアクチュエーターの性能だけでは決まらないからです。

MFCとしての応答性能は下図のようなプロセスを経て、流量が制御されるまでの時間を表しています。

191129_02


この中で圧倒的に遅いのは、実は初段の部分=センサーでの熱移動の感知です。
そもそも熱というものは、そんなに素早く移動しません。
熱式流量計というものは、数ある流量センサーの中でも鈍いセンサーなのです。
例えば歪を捉える圧力センサーと比べたら10倍は遅いでしょうね。

「あっ!だから圧力式MFCの方が応答が早いんですね!」
というご意見も、あまり当たっていません。

MFCの応答性、それはPVを出力する流量センサー、SV=PVとなるよう比較・判断・操作する調整計、調整計からのMVで動く流量制御バルブ(アクチュエーターを含む)、この3つが積み上げた結果の値なのです。

MFC千夜一夜物語 第301夜からのお話は、この辺りをお話ししてみましょうか?
このお話の終着駅にある結論は、いささかとんでもないものになりそうなのですが・・・
下手するとMFC不要論にもなりかねない、マスフローマイスターが廃業しなくてはならないような怖いお話かもです。

お楽しみに!

【MFC豆知識】 by Deco EZ-Japan



EZ-Japan(イージージャパン)Deco こと 黒田です。 2014年6月開業です。流体制御機器マスフローコントローラーを中心に”流体制御関連の万(よろず)屋”として情報発信しています。 日本工業出版「計測技術」誌で”マスフロー千夜一夜物語”の連載中です。
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