EZ-Japan BLOG since 2017 真・MFC千夜一夜物語

EZ-Japanブログは、真・MFC千夜一夜物語という流体制御機器=マスフローコントローラ(MFC)の解説記事をメインに、闘病復帰体験、猫達との生活が主なコンテンツです

フローコントローラー

真・MFC千夜一夜物語 第352話 圧力式フローコントローラーの現状 その6 

謹賀新年。 
本年もEZ-Japan BLOG、真・MFC千夜一夜物語を、宜しくお願いいたします。
新年は1/11の更新予定でしたが、皆さん既に仕事始めの方も多いようですので、1/11更新予定分を前倒ししてアップさせて頂きますね。

さて、昨年から続いております半導体製造装置市場向けで注目を集めている圧力式フローコントローラーに関する解説です。
各メーカーの圧力式フローコントローラーを俯瞰していますが、解説にはDecoの主観が入っています。
鵜吞みにせずに詳細は各メーカーさんに確認してくださいね!

④ ブルックス GP200シリーズ
圧力式では日本のMFCメーカーに出遅れていたブルックス・インスツルメント(Brooks Instrument, LLC 日本法人 ITWジャパン(株) 以下ブルックス)は、2020年になって堀場エステック、日立金属同様にラミナーフロー方式の圧力式フローコントローラー GP200シリーズをリリースしました。 他社製品との違いは、ラミナーの上流用P1、下流用P2に絶対圧センサーを2個装備するのではなく、1個の差圧センサーに統一して対応している事です。
 
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この構造は、実はラミナーフロー方式の流量測定方法としては、王道を行く構成です。
以前取り上げたALICATのラミナーフロー方式フローコントローラーも差圧センサー(絶対圧対応)を搭載している点で似通っていますが、純粋な半導体向け用途ではブルックスが初めてではないでしょうか?
差圧センサーの部品コストは安価ですし、搭載する2つの絶対圧センサーの器差を少なくするという品質上の厳しい要求を抱えるラミナーフロー式にとっては、好ましい判断に思えます。
流量制御バルブを下流に置き、絞りとして機能させることで、二次圧変動影響を抑制し、差圧センサーを安定した環境で使用する事ができる構成も、よくわかっている感がありますね。
ラミナーフロー方式の原理を忠実に再現したところは、日立金属 PS100シリーズと同じです。
まだ市場に出て間もない事があり、評価はこれから定まっていくかと思います。

本来差圧式センサーは耐圧性能に乏しく、急激な圧がかると破損しやすいという欠点を持っている点が気がかりではあります。
同様の構造で一般工業向けに販売しているALICATがこの問題に頭を悩ませていた事は、老舗のブルックスは十分承知していると思いますので、何らかの対策が盛り込まれているのではないでしょうか?それらを含めて、現時点では市場の評価待ちという状況です。

半導体製造装置向け圧力式フローコントローラーが世に出て20年は経過しています。
その中で先駆者たるフジキン、そして技術をM&Aで上手く取得した堀場エステックの2社が、大切に製品を熟成していった結果、この先の10mmMFCの世代で一気に熱式とのシェアをひっくり返す存在にまで成長しているようです。
そして、それに日立金属とMFCの老舗ブルックスの圧力式がどこまで迫っていけるかは、今後非常に楽しみですね。
また、今回は取り上げていませんが、PIVOTALのような全く考え方の異なる“圧力式“も存在しています。

Decoのような熱式、それも巻線式のマスフローコントローラー(MFC)で育った世代からすると、少し寂しい気もしますが、こういったドラスティックな変動に立ち会えるのは、大変面白い事です。
本ブログでは今後も新しい技術動向を紹介していきたいと思っています。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

真・MFC千夜一夜物語 第351話 圧力式フローコントローラーの現状 その5 

半導体製造装置市場向けで注目を集めている圧力式フローコントローラーに関する解説です。
各メーカーの圧力式フローコントローラーを俯瞰していってます。
解説にはDecoの主観が入っていますので、鵜吞みにせずに詳細は各メーカーさんに確認してくださいね!

③ 日立金属 PS100シリーズ
日立金属(株)の圧力式フローコントローラー第1世代に当たるPS100シリーズは、堀場エステックの“CRITERION”と同じくラミナーフロー方式の流量測定原理を採用しています。
本製品の構造上の大きな特長は、機械式のレギュレーターを入口部に設置していることです。
これは他に例を見ません。
レギュレーターで上流圧力変動を抑え、下流側は流量制御バルブが絞りの効果を発揮して同じく圧力変動影響を受けない為、測定時に非常に高い安定性を維持できると期待できます。
P2が真空下で二次側圧力変動に晒され続ける構造よりも、ラミナーフロー流量測定原理を忠実に再現できる点で評価できるとDecoは考えます。
 

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PS100シリーズは理論的には正しい構成を取っています。
しかし、その利点を裏返すと、搭載する機器、部品点数が多くなることで構造が複雑になるという事です。
・・・という事は、コストダウンが難しいのではないのかな?いう点が気にはなります。
でも、同社の圧力式フローコントローラーの一作目としては、非常に手堅くまとめられている点で好感が持てます。
Decoの知る限り、機械式レギュレーターの設計、生産経験は同社には無かった筈ですが、よく開発に踏み切ったものだと感心しました。
レギュレーター部を含めた性能評価がここ数年で進んできて、更なる進化を見せてくる可能性に期待したいですね!

真・MFC千夜一夜物語 2021年の更新は今回までです。
次回更新は、年明け1/11(火)の予定です。

2022年もEZ-Japan BLOGを、宜しくお願いいたします。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

真・MFC千夜一夜物語 第350話 圧力式フローコントローラーの現状 その4 

半導体製造装置市場向けで注目を集めている圧力式フローコントローラーに関する解説です。
前回から一社ずつ各マスフローメーカーの製品を俯瞰していってます。
解説にはDecoの主観が入っていますので、鵜吞みにせずに詳細は各メーカーさんに確認してくださいね!

② 堀場エステック CRITERIONシリーズ
圧力式フローコントローラーの開発が盛んになった2000年代、米国でFuGasity Corporationというベンチャー企業が、体積流量計であるラミナーフロー流量計の原理をアレンジしたUS特許を取得し、圧力式フローコントローラーを発表しました。
2003年に (株)堀場エステック(以下堀場エステック)はこのFuGasity Corporationの事業を買収し、圧力式フローコントローラー”CRITERION“シリーズの製造権、販売権、技術特許を取得しています。
”CRITERION“シリーズはラミナーフロー方式(堀場エステックでは「層流粘性流域差圧検出方式」と呼称)であり、理論上高い精度での計測が可能です。

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ラミナーフロー方式は、臨界ノズル方式と並んで、国家の流量標準移管器として採用されるなど、理想的な気体流量測定方式です。
フローコントローラーとして考えた場合、ラミナーフロー方式の一番の長所は、他の圧力式と比較してワイドレンジ対応が容易な事です。
しかし、真空領域での用途がメインである半導体製造装置で使用するには2つの問題点があるとDecoは考えていました。

① 超高真空下の密度の低い気体の流量測定に用いるにあたって、P1、P2の2つの絶対圧センサーの器差が問題となること。

② ラミナーフロー方式は、熱式のように流体固有の物性である比熱に支配されない代わりに、同じく固有の値たる粘性に支配されます。

つまり熱式と同様にガスによるコンバージョンファクター(CF)が存在してしまうこと。
①に対しては、絶対圧センサーの性能と器差の縮小をハードウエア的に熟成していくしかありません。
②に対しては、CF、つまり実ガスとの変換係数を設定する為のガスデータの蓄積が必要になります。
熱式マスフローコントローラー(MFC)もMGMR対応に当たっての実ガスデータベース作成が求められていた背景もあり、堀場エステックは福知山テクノロジーセンター等で実ガス流量測定装置等の設備を準備してガスデータベースを構築しています。
こういった表舞台にあまり出ない部分で技術データの蓄積を、確実に行ってきているのは流石にトップメーカーだなぁと感心させられますね。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan


真・MFC千夜一夜物語 第349話 圧力式フローコントローラーの現状 その3 

半導体製造装置市場向けで注目を集めている圧力式フローコントローラーに関する解説です。
ここで各メーカーの圧力式フローコントローラーを俯瞰してみましょう。
解説にはDecoの主観が入っていますので、鵜吞みにせずに詳細は各メーカーさんに確認してくださいね!

①フジキン FCS-P シリーズ
MFC業界での圧力式フローコントローラーの始まりは(株)フジキン(以下フジキン)の臨界ノズル方式のフローコントローラーFCS(FCS-P)シリーズです。 (臨界ノズル式は広義で差圧式流量計に分類できると考えています。) 
開発当時は音速ノズル(ソニックノズル)方式と呼称されていました。
FCSはその原理上、一次側圧力変動影響を受けないという利点から、従来の熱式マスフローコントローラー(MFC)では必要とされたMFC一次側への圧力調整器(ラインレギュレーター)と圧力センサー設置を不要にすることができました。
これによるガスシステムの小型化、コストダウンに大きく貢献するという評価から、マルチチャンバー化で多系統のガスラインを必要とするドライエッチング装置で採用されて有名になりました。圧力式フローコントローラーであるFCS第1世代(この世代名称は分類上、Decoが名付けたもので、フジキンさんの公式な名称ではありません。)の構成を下図で見てみましょう。

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オリフィス上流側の絶対圧が下流側絶対圧の2倍以上になると、そのオリフィスを通過するガスの流速は音速に達し、以降はガスの流量はオリフィス上流側圧力にのみ比例します。
この臨界膨張条件と呼ばれる原理を応用したのがFCSの特長です。
FCSの流量制御原理を、音速ノズルの効果で流速が固定されることを、流量も固定されると誤解している人がおられますが、それは間違いです。
流量は上流圧に比例して増加します。
例えば400Pa(A)である流量が得られるオリフィスに対して、オリフィス上流側圧力を10倍の4kPa(A) にすると、10倍の流量が得られるという考え方です。

MFCは上流側圧力変動の影響により制御流量が激しく揺らぎ、これをキャンセルする為には圧力センサーを搭載したPI-MFCを用いたりしますが、FCSはこの原理により、上流側圧力変動の影響を全く受けないメリットを受ける事ができのです。
この臨界ノズル式の肝は、オリフィスの上流圧をいかに精度よく制御できるかです。
これにはオートマチック・プレッシャー・コントローラー(APC)が用いられています。
Decoは臨界ノズルを国家の流量標準移管器として使用されている産業技術総合研究所 計量標準総合センター(NMIJ)等で何度か見せ頂きましたが、Paレベルで調整が可能な高精度なAPCによる圧力制御を、非常に高価な絶対圧センサーと制御バルブとの組み合わせで実現しておられました。

FCSは現在までDecoの知る限りでは第3世代まで進化しているように思えます。
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第1世代から第2世代への変更点は、臨界ノズルの下流に絶対圧センサーを追加した事です。
臨界状態をノズルで維持できている限りは、この追加は不要だったと思うのですが、フィールドで直面する各種使用条件への対応に迫られて追加されたと考察しています。

それに対して第3世代は、ノズル上流に空圧弁を追加し、下流側圧力センサーを廃しています。
おそらくはALD/ALEといった高速応答、及び流量制御バルブ下流側デットボリューム削減を意図し、彼らの理想とする”水道方式“に近づけた姿と考察しています。
その意味では異なる派生バージョンと考えてよいかもしれませんね。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

EZ-Japan(イージージャパン)Deco こと 黒田です。 2014年6月開業です。流体制御機器マスフローコントローラーを中心に”流体制御関連の万(よろず)屋”として情報発信しています。 日本工業出版「計測技術」誌で”マスフロー千夜一夜物語”の連載中です。
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