EZ-Japan BLOG since 2017 真・MFC千夜一夜物語

EZ-Japanブログは、真・MFC千夜一夜物語という流体制御機器=マスフローコントローラ(MFC)の解説記事をメインに、闘病復帰体験、猫達との生活が主なコンテンツです

マスフローコントローラ

真・MFC千夜一夜物語 第325話 MFCの応答性 その1

最近でこそあまり競わなくなったイメージがありますが、Decoが営業になった1990年代はMFCの応答性精度の数字がどれだけ良いかを競う時代でした。
応答性と精度という項目は、MFCが単独で保証できる性能ではなく、どんな環境で使ってもカタログスペックを発揮できるわけではないという点を最近のユーザーさんは良くわかってきておられるようですね。

下図、SEMI Standard  E17 “ マスフローコントローラの過渡特性テストのガイド” での定義を見てください。
現在マスフローメーカーが仕様に記載する定義・用語は、そのほとんどがこれに準じていると思っていいでしょう。

 180710_01


この定義が普及するまでは,MFCの応答性能表記はメーカーによりまちまちでした。
設定信号(SV値)が入力されてから、流量信号(PV値)が反応するまでの無反応時間(だんまり時間(Dead Time)が含まれます。
これを無視してPVが反応してからの時間を記載したり、無反応時間を含むトータルの応答時間としてステップ応答時間(Step Response Time)で記載する為、流量が設定値の±2%範囲の下限、設定値の-2%側を通過した瞬間で記載していたメーカーもありました。
これには大きな問題点があります。
先の図を見て頂ければお判りいただけると思いますが、ステップ応答を良く見せる為には、例えオーバーシュートが過多であってもOKなのです。

整定時間(Settling Time)の定義が理解されるまでは、こういったオーバーシュート含みの応答波形で出荷されるMFCに当たると、顧客はプロセスに問題を生じてしまい、困ってしまったのです。
特に半導体製造装置や一部の分析装置はリアクターを高真空に維持してプロセスを行います。
これではせっかくポンプで排気してAPCで高真空を保っても、ガス導入時のオーバーシュートによるサージで真空度が悪化してしまいます。

止む無く安定するまで、貴重なプロセスガスをベント側へ捨てて、流量が安定してから切り替えるという無駄を強いられることになってしまいます。
高価なガス、しかも一部は毒性の高いガスであったりしますから、それを純度の高い状態で捨てられると、下流の除害システムにかかる負担も大きくなりますので、こういった傾向は「応答性能を良く見せているだけで、なにも良い事は無いではないか?」という気付きに繋がり、整定時間でMFCの応答性を議論するようになったのです。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

MFCのKv値(Cv値)を聞いても意味がありません

徒然日記なのですが、本人が思ったより扱いが難しくて、そのまま放置していました。

本音をぼやくと言いながら、いやいやなかなか難しいものだなぁと・・・

 

さて、流体制御システムを組まれる方ならバルブ関連の用語 Kv もしくは Cv という言葉を御存知かもしれません。

本ブログでも、MFC豆知識“【用語解説】Cv値とKv値” で解説しています。

 

ここの最後の文で、
“でも、マスフローコントローラ(MFC)の場合、これらの容積係数の分だけ必ず流量が取れるわけではないので、そこのところは要注意です。”  
と書いたのですが・・・

この後も結構、聞かれることが多いのです。

それも、流体制御の初心者ではないような方々から・・・

 

これは書こうかなと思ったので、ここで簡単にお話ししておきます。

 

MFCKv値(Cv値)を聞いても、意味はありません!」

 

全く意味はない事はないのですが、それはMFCを全開にしてパージするときくらいで、それすらソレノイドアクチュエーターのMFCなら、経時的にコイルから発熱が大きくなることで、アクチュエーターの推力がダウンするので、やはり正確な値とは言えなくなります。
ピエゾの場合は、熱へ変換される事がほとんどないのでいいのですが、そもそもリフト量が小さいアクチュエーターなのでバルブ全開モードでもそのKv値(Cv値)分で流せる流量はたかが知れています。

パージが必要ならば、かならずMFCをバイパスする配管を設置してください。

 

では、通常制御時になぜKv値(Cv値)の情報が役に立たないか?というと、先ほどの文章に答が書いてあるのですが、MFC通常流量制御時はKv値(Cv値)よりはるかに下の流量レンジで制御しているからです。

 

「では、この設定流量時のKv値(Cv値)なら出せるだろう!」


と、お聞きになる方もおられます。

出せない事はありませんが、やはりあまり意味はないかと・・・

MFCに搭載される流量制御バルブは、ある電圧信号VS開度での流量曲線を示す比例制御弁、電動モーターバルブとは異なった配管制御部品です。

異なるのは構造のことではなく、その役割の事です。

 

あくまで流量センサーからの流量信号(PV値)と設定信号(SV値)を比較し、それらが同値になるようバルブ制御信号(MV)を可変させるのがMFCなので、MFCの役割は流量を制御する事であり、そこに搭載されている流量制御バルブに求められるのは、ある値のバルブ制御信号を得たら器差なく同じKv値(Cv値)になるようにそれを制御する事ではないからなのです。

 190624_02

 

MFCMFCの中で調整計をもっており、自身でフィードバック制御をするものであること、
MFCPID制御を活かしたまま、外部からPID制御でSV値を与えて制御しようとする間違いをおかした際にも直面する理屈なのですが、MFCが何たるか?を、理解いただく上で一番重要なところです。

 

マスフロー徒然日記 by Deco EZ-Japan

真・MFC千夜一夜物語 第279話 マスフローでこのガスを使う時は注意しよう! その11


EZ-Japan4/27()5/6(月)までGW休暇を頂きます。従って次週4/30のブログ更新はお休みを頂きます。再開は5/7()からとなりますので、宜しくお願いいたします。

 

もう一つのMFC千夜一夜物語が掲載されている日本工業出版さんの「計測技術」誌 20194月号(3/25発売)ではマスフローコントローラ(MFC)マスフローメータに異物が混入した際のトラブルシュートを解説しています。

 

 

モノシランが引き起こした事故事例 その2

 

もう一つモノシランの事故事例を解説しましょう。
前回の大阪大学の事故は逆止弁が問題でしたが、今回はMFCが原因の一つと考えられているだけに、要注意です。

1982年、宮崎県の半導体製造工場で、CVD装置の排気ダクトに残留したモノシランが発火し、ダクトから建造物に燃え広がる事故が発生しました。
重傷2(1名は後日死亡)、中軽傷3名の事故となっています。
CVD
装置のモノシランラインのMFCが流量を過大に供給したことにより、CVD装置チャンバーで反応できなかった多量のモノシランが、後段にある排ガス処理装置へ流れ込みました。
しかも、その燃焼式除害装置に供給される筈の酸素はなぜか止まっており、結果として未処理のモノシランが除害装置の更に下流のダクトに侵入し、そこにあった空気と反応して自然発火したのが原因とされています。
この事例ではダクトの材質を不燃材にする、排気ダクトの共通化を避け1装置に1ダクトとする、ダクトに風速センサーを設ける、火災検知センサーを取り付ける等の対策が取られました。


本ブログとしてはMFCが過大なモノシランを流したと言われていることに関して、Decoの考察を加えておきます。
この事件でMFCの流量センサーが微粉末による閉塞をしていたと推定されています。
MFC
の流量センサーが閉塞して流れないのに、なぜ過大な流量が流れてしまったのか?本ブログを続けて読んでいる読者ならすぐわかるかもしれませんが、初読の方の為に説明をしましょう。
モノシランに限らず、半導体製造プロセスで使用するガスはクリーンなものが選定されていますし、フィルターにより異物の混入を幾重にも防ぐ構造になっています。
なのに微粉末がMFCに侵入していたというのは、おそらくはモノシランが反応して生成したSiO2ではないでしょうか?
この微粉末がMFCに侵入しセンサーチューブを閉塞させている状況を図で示します。

 

190422_01

 

巻線式分流構造をとる半導体製造装置用MFCの場合、MFCに入ってきたガスはセンサーと層流素子(バイパス)に分流されます。
ここでセンサーに異物で詰まりが生じていた場合、センサー管にはガスは流れないので、センサーの上流から下流に熱移動が生じず出力は0となります。
分流した層流素子側の流路は詰まりでガスが流れ無いほどの状況ではなかったと仮定しましょう。
MFC
測定値:PV値(流量出力)<目標値:SV(流量設定入力)の状態をPV=SVにする為に、操作量MV(バルブ電圧)を増やして対応しようとします。
しかし、詰まりで閉塞しているセンサー管には流れは生じませんから、PV=0の状況は変化しません。
その為、MV値は最大値となってバルブを制御、つまりMFCの流量制御バルブが全開で維持されてしまうのです。

これがこの事故で生じたMFCの異常に過大な流量制御を起こした不具合の原因と思われます。言い換えると、この事故の原因はMFCに生じた不具合ではありますが、MFCの流量制御系自体は“正常な動作”を続けた結果だったのかもしれません。

(Deco
が現場を検証したわけではないので断言は避けます。
これはあくまでMFCのセンサー管が微粉末で詰まった場合、“MFCとしては正常な流体制御結果”から、モノシランガスでは大きな危険が発生することを説明し、注意を喚起するための考察です。)


【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

真・MFC千夜一夜物語 第277話 マスフローでこのガスを使う時は注意しよう! その9

もう一つのMFC千夜一夜物語が掲載されている日本工業出版さんの「計測技術」 20194月号(3/25発売)ではマスフローコントローラ(MFC)、マスフローメータに異物が混入した際のトラブルシュートを解説しています。

 

今回からは「特殊高圧ガス」のお話です。

特殊高圧ガスは、一般的な高圧ガスよりも危険性が高いガスです。

 

モノシラン(SiH4)

ジシラン(Si2H6)

アルシン(AsH3)

ホスフィン(PH3)

ジボラン(B2H6)

モノゲルマン(GeH4)

セレン化水素(H2Se)

 

以上7種が特殊高圧ガスという名称で、半導体製造ガスでよく用いられる39種の「特殊材料ガス」の中でも使用頻度が高く危険なで、それぞれが広範囲の爆発範囲をだったり、自然発火性や分解爆発性のような可燃性、限界濃度が極めて低い毒性を持っていることから、これらの販売、移動、消費に当たっては特別な規制が設けられています。

マスフローでは、保証しているリークレートがHeリークディテクタの測定限界以下であるメタルシールモデルが推奨されます。
190408_01
メタルシールMFC【出展:ブロンコスト・ジャパン(株)】
 

爆発範囲に関しては水素の解説で少し触れましたが、水素が4.075vol(空気)なのに対して、ホスフィン1.3298vol%、モノシラン1.37100vol%、ジシランに至っては0.5100vol%です。

この3種は、常温の大気に触れることにより発火します。
これらのガスは、そのリークを止めない限り、消火器で消し止められたように見えても、それは支燃性ガスである空気(酸素)を遮断しただけで、再度空気に触れれば燃え続ける性質を持っており大変危険です。

更に分解爆発性を持つモノゲルマンは、支燃性ガスを必要とせずに、可燃性ガスのみで発火元があれば燃え上がり爆発する大変危険なガスなのです。

余談ですが、特殊高圧ガスではなくても、分解爆発性で有名なガスにアセチレン(C2H2)があります。
アセチレンは可燃性ガスの中でも非常に高温で燃焼するので、金属の溶接・溶断加工に適しています。
また、フレーム原子吸光分光計のような分析装置や、ダイヤモンド薄膜製造装置等にも使用されています。
液化ガスとして容器(ボンベ)に詰めたアセチレンは容易に爆発事故を起こしてしまうので、現在ではアセトン等に溶解させて容器に充填して使用されています。(アセチレンボンベは茶色い容器の為、一目で識別できます。)
このような分解爆発性に関しては、各種ガスで実験検証が行われており、モノシラン、アルシン、ジシラン、ホスフィン、ジボラン、セレン化水素に関しては分解爆発がないことを確認されていますが、それで安心してはいけません。
分解反応で生成する熱量が大きいガスはその結果、容器内圧力が急上昇することになり、容器の破壊圧を超えることで破裂事故が生じるからです。
定められた充填量を守り、火災により容器周辺温度が上昇しないように火気には十分注意しなくてはなりません。

 

次回は特殊高圧ガスの代表として、モノシランを取り上げて、このガスが引き起こした悲惨な事故事例を紐解いてみましょう。

 

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

真・MFC千夜一夜物語 第275話 マスフローでこのガスを使う時は注意しよう! その7


もう一つのMFC千夜一夜物語が掲載されている日本工業出版さんの「計測技術」誌 20194月号(3/25発売)ではマスフローコントローラ(MFC)、マスフローメータに異物が混入した際のトラブルシュートを解説しています。

 

アンモニア(NH3)

アンモニアは可燃性、有毒ガスですが、半導体製造装置、窒化炉、発電設備、脱硝装置、石油精製装置の防食、イオンエッチングプロセスなど各種工業用途で広く用いられています。

ボンベの色は白色と決められています。

アンモニアは20℃での蒸気圧が0.857MPaの液化ガスです。
液化ガスと通常ガスとの大きな差は、液化の字のごとく液化ガスボンベには圧縮した液体と化したアンモニアが封入されていて、それがボンベ内で気化したガスを供給する仕組みであることです。(下図)


第5図

 

  ボンベに充填された液体アンモニアが内部で気化して気体となった際に得られる圧力は、常温で0.8MPaあればいいところです。

しかも液体アンモニアの蒸発潜熱は1268 KJ/Kg0℃、1013hPa)も必要である為、アンモニアを大量にボンベから払い出そうとすると、ボンベが熱を奪われてしまい、急激に温度が下がることで、ガスの供給圧力を失ってしまうのです。
例えばアンモニアをMFC下流側に0.2MPaの背圧が立つ条件で500L/min[N]流量制御したい場合、通常のMFCだと最低でもMFCへの供給圧は0.5MPa程の圧力をとってやる必要があります。
MFC
での圧力損失=ΔP0.3MPa必要になります。
これはあくまでMFCの入口/出口部での差圧ですから、ボンベからチャンバーまでの配管経路にある他の配管部品、バルブやフィルター、そして配管の曲がり等により生じる圧力損失を考慮すると、アンモニアボンベからの供給圧はさらに高く維持しなくてはならなくなってしまいます。

供給圧を上げるには、液化ガスである限り温度を上げて蒸気圧を稼ぐしか術はありません。
手っ取り早い話、ボンベの温度を上げればいいのですが、高圧ガス保安法では可燃性ガスのボンベを火や電気で直接温める行為が禁じられているので、間接的な手法である湯煎しか方法はないのです。
案外、このことを知らずにアンモニアボンベを市販の非可燃性ガス専用ボンベーヒーター(マントルヒーターやシリコンラバーヒーター)を用いている現場があるかもしれませんが、法律の順守を意識して下さいね。
確かに湯煎は設備も大掛かりになり大変であり、そういった意味ではできるだけ低い圧力でアンモニアを供給したいのが本音です。

 MassStream_03
【出典:ブロンコスト・ジャパン(株)】

ここで紹介するブロンコスト社のMFC MASS-STREAM D-6371は、先ほどの二次圧0.2MPaの条件に対して、なんと一次圧は0.2386MPa500L/min[N]のアンモニア流量制御ができる低圧損大流量MFCです。

MFCの圧力損失はわずか38.6kPa(d)
まさにアンモニアのような液化ガスを大流量制御するためにあるようなMFCです。

なぜこのMFCはこんなに低圧損で大流量制御が可能なのか?それは流量センサー構造の差です。

以前の記事でも取り上げたので記憶している方も多いかもしれませんが、MASS-STREAMシリーズの流量センサーは、インサーションタイプなのです。

詳しい解説は次回・・・


【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

EZ-Japan(イージージャパン)Deco こと 黒田です。 2014年6月開業です。流体制御機器マスフローコントローラーを中心に”流体制御関連の万(よろず)屋”として情報発信しています。 日本工業出版「計測技術」誌で”マスフロー千夜一夜物語”の連載中です。
QRコード
QRコード
Decoへのメッセージ

名前
メール
本文
記事検索
タグクラウド
タグ絞り込み検索
  • ライブドアブログ