EZ-Japan BLOG since 2017 真・MFC千夜一夜物語

EZ-Japanブログは、真・MFC千夜一夜物語という流体制御機器=マスフローコントローラ(MFC)の解説記事をメインに、闘病復帰体験、猫達との生活が主なコンテンツです

モノシラン

真・MFC千夜一夜物語 第281話 マスフローでこのガスを使う時は注意しよう! その13

【お知らせ】

今まで本ブログは、"EZ-Japan BLOG since 2017”と "真・MFC千夜一夜物語”@niftyココログ版の2つで同時連載進行を行って参りましたが、既に告知の通り2019/5/11をもって@niftyココログ版の方を終了させていただく事になりました。(既に更新は4/23で終了しております。)

こちらのブログ"EZ-Japan BLOG since 2017"版での連載は、変わらず続けて参りますので、どうか千夜一夜=1001話にたどり着く迄、宜しくお願い申し上げます。

 

もう一つのMFC千夜一夜物語が掲載されている日本工業出版さんの「計測技術」誌 20195月号(4/25発売)ではブロンコスト(BronkhorstHigh-Tech B.V.のマスフローコントローラ(MFC)、マスフローメータ(MFM)の新製品(MEMS式コリオリ流量センサー他)をを紹介しています。

 

 

モノシランをマスフローで使う場合の注意事項 その2

モノシラン、そしてそれに準じる危険性を持つ特殊高圧ガスを使用するには細心の注意が必要です。
特にマスフロー(MFCMFMの総称)の配管作業時には、外部リークを発生させないように、細心の注意が必要です。

フェイスシールタイプ(VCR®UJR®等とメーカーで呼称)はメーカーの規定する“手締め+1/8回転”といういささか頼りない締め付けに不安になり、さらに締め付けようとするユーザーを何度か見てきました。

それによりビード部に傷をつけてしまい、却って外部リークが止まらず泣きを見る人が少なからずいます。
ビード部を損傷すれば、昨今のマスフローでこの種のオスネジを削り出しで加工している製品ならば、単純な継手交換だけでなく、フランジ又は本体ボディ交換というかなりコストと手間のかかるシャレにならない事態になってしまいます。
また、ガスケットの再利用は厳禁です。
メタルタイプフェイスシールは、いわゆるメタルシールと同じなので硬度こそ違いますが、ビード部とガスケット、つまり金属と金属が押し付けられてシールをしているのですから、一度使用したガスケットには傷がついてしまっているのです。

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Oリングシールタイプのフェイスシールタイプ継手、メーカーで呼称するところの”VCO”は、日本ではほとんど普及していませんが、非常に使い勝手のいい継手で、ヨーロッパでは結構使われています。
フェイスシールタイプのガスケットに当たるところが、樹脂製のOリングになっているのが特長です。
この場合は、メタルシールのような削り出しのものはほとんどなく、食い込み継手と同じくマスフローボディの直管ねじ(UNFやBSPP)に継手コネクターがねじ込まれて、Oリングでシールされていますので、前回のお話ししたのと同じく、マスフロー側の固定にも留意してください。

横着はせずにスパナ2本でしっかり固定と締め付けを行うべきです。


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マスフロー、特にMFCでのモノシランが反応して生成したSiO2でのセンサー詰まりは恐ろしい結果を産む可能性がある事は既に解説しました。
Deco
の経験ではシラン系ガス用のMFCが修理で返却されてくると、バルブオリフィスや層流素子に白い粉が詰まっていることがよくありました。
これはどこかに酸素と反応した生成物が発生するポイントがあるということです。
大まかに分類すれば、それがMFC下流側である場合は、二次側の継手とバルブ部分が、上流の場合は一次側の継手と層流素子に白い粉が付着しているます。(センサーも詰まっているはずですが、内径1mmに満たないチューブの中身を目視は難しいので、出荷時の圧損と比較して詰まりの有無を診断するしかないのです。)
もちろんMFC自身の外部リークによる可能性もあるのだが、このトラブルに関しては経験上、マスフロー以外の配管系にその発生源があったことが多かったですね。

センサーの流量出力が実流量よりダウンしてしまうと、MFCは設定値より多くガスを流し始めます。
装置側のビルドアップ(ROR)等で定期的にMFCの流量を検証して、流量制御状態を把握しておく必要があるのです。だが、このトラブルは異物の詰まりという外的要因の性質上、いきなり発生することもあり得ます。
そうなるとリアルタイムでの流量検証が重要とされ、MFCの流量をMFMでモニタリングするという手法もよく用いられました。
だがこのMFMと監視対象のMFCの動作原理が、ともに熱式で分流構造をとっている場合、同じように異物の混入影響が発生する可能性もあります。
同じ熱式でも分流構造のものと全量測定構造のものを組み合わせるなどの工夫が必要になってくるところですね。(全量測定のものに、メタルシールモデルは今のところありませんので、難しいところですが・・・)

 

半導体製造プロセスで使用される機会が多い特殊高圧ガスに関して、代表例としてモノシランを取り上げ、事故事例とマスフローで使用する上での注意事項を解説してきました。

人間にとって安全なガスは大気圧の空気だけです。
窒素や酸素ですら牙をむいてくるのです。
ましてや特殊高圧ガスは空気中に漏らしただけで発火したり、支燃材なしで分解爆発するガス、そしてアルシンのようにきわめて毒性が強く、微量のガスを短時間(LCL0 25ppm/30min)吸引しただけで命を落とすガスもあります。
できれば避けて通りたいようなガスばかりなのです。

職務や学業で携わる事になった方は、“特定高圧ガス取扱主任者 特殊高圧ガス“資格を取得されているかと思いますが、もし未取得ならば、是非取得をお勧めします。
 
特殊高圧ガス以外にも圧縮水素、圧縮天然ガス、液化酸素、液化アンモニア、LPガス、液化塩素と合計7種類に分かれていますので、詳細は高圧ガス保安教会まで問い合わせて下さいね。

 

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

 

真・MFC千夜一夜物語 第280話 マスフローでこのガスを使う時は注意しよう! その12

【お知らせ】

今まで本ブログは、"EZ-Japan BLOG since 2017”と "真・MFC千夜一夜物語”@niftyココログ版の2つで同時連載進行を行って参りましたが、既に告知の通り2019/5/11をもって@niftyココログ版の方を終了させていただく事になりました。(既に更新は4/23で終了しております。)

こちらのブログ"EZ-Japan BLOG since 2017"版での連載は、変わらず続けて参りますので、どうか千夜一夜=1001話にたどり着く迄、宜しくお願い申し上げます。

 

お陰様でEZ-Japanは、恙なく”令和“を迎えることができました。
新しい時代”令和”がEZ-Japanにとって、そして皆様方にとって良い時代であることを祈りたいと思います。

では、令和になって第一回の千夜一夜物語をお届けしましょう。


 

モノシランをマスフローで使う場合の注意事項 その1

 前回、前々回の事故事例を紐解いてみても、モノシラン、そしてそれに準じる危険性を持つ特殊高圧ガスを使用するには細心の注意が必要な事がわかったかと思います。
特殊高圧ガスを消費する者はその量の多寡に関係なく、事業所において特定高圧ガス取扱主任者を選任し、都道府県知事に届け出を行わなければなりませんし、当然消費施設や消費方法が技術基準に適合しているかを問われます。
ですが、特定高圧ガス取扱主任者の講習では、マスフロー(MFCMFMの総称)に関する詳細な講習までは行ってくれないようです。(Decoが受講したかなり前の記憶なので、現状の講習内容は未確認です。)
本ブログの第一目的はマスフローを安全に運用するのに必要な知識をユーザーの皆様に知っていただく事です。
マスフローのようなマイナーな流体測定&制御機器の分野を掘り込んで解説する場所としては最適かな?と自画自賛的に思っていますので、ご活用いただけたら幸いです。

 

さて、マスフローで気を付けなくてはいけないのは、何はよりも外部リークです。
モノシランが大気にリークすることの恐ろしさはご説明してきました。
モノシランを使用するCVD装置等はチャンバーが真空=つまり流路は負圧であることも多く、リークがあれば大気がモノシラン配管に引き込まれることになり、大変危険な事態を引き起こします!
そこで昨今、シラン系のガスラインには、接ガス部にメタルシールを用いるタイプのマスフローが選定されるのが標準となってきました。
これはマスフローとしてのリーク性能差(メタルシールはHeリークディテクタの測定限界以下)を重視してのことですが、決してエラストマーシール(樹脂Oリングシール)が使用できない訳ではありません。
日本のユーザーとマスフローメーカーは、何かというと厄介そうなガスは全てメタルシールタイプマスフローで済ませてしまうきらいがありますが、ヨーロッパなどではエラストマーシールで対応することもあります。
エラストマーシールの場合、フッ素樹脂系ゴムのバイトン®で耐性的は問題がありません。

 ただ、こういったエラストマーシールタイプのマスフローを、ユーザー自身が配管施工する場合は、継手の締め付け作業に関しては、より慎重に行って頂きたいです。(下図参照)

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 食い込み継手の場合、(食い込み継手は、“スエジロック継手”と一般的に呼称していますが、御存知の通りこれはメーカー名なので注意してください。英文名:Compression fitting を和訳すると”食い込み”になるわけです。) メーカーの指導内容をよく読まずに、力任せにひたすらナットを締め付けてしまうミスをよく見かけます。
この方法では逆効果で、これが原因で外部リークが起きている事例をたまに見かけます。

「手締め状態から11/4回転」というのが、正しい締め付け方法です。

 ここまではできていながら、マスフロー側の固定が甘く、共回りしてしまってマスフローボディへ適切に継手の直管ネジが固定されておらず、緩んでしまったり、Oリングに傷がついてしまって外部リークを起こすパターンも散見されます。

特に配管径が細い場合には要注意です。
ナットとボディ部に挟まれて、作業しづらい部位でもあるので筆者は薄口タイプのモンキーレンチ(写真)を必ず2本は工具箱に入れています。

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トルクをあまりかける必要としないこのような配管作業には、なかなか適した工具なのです。


【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

真・MFC千夜一夜物語 第279話 マスフローでこのガスを使う時は注意しよう! その11


EZ-Japan4/27()5/6(月)までGW休暇を頂きます。従って次週4/30のブログ更新はお休みを頂きます。再開は5/7()からとなりますので、宜しくお願いいたします。

 

もう一つのMFC千夜一夜物語が掲載されている日本工業出版さんの「計測技術」誌 20194月号(3/25発売)ではマスフローコントローラ(MFC)マスフローメータに異物が混入した際のトラブルシュートを解説しています。

 

 

モノシランが引き起こした事故事例 その2

 

もう一つモノシランの事故事例を解説しましょう。
前回の大阪大学の事故は逆止弁が問題でしたが、今回はMFCが原因の一つと考えられているだけに、要注意です。

1982年、宮崎県の半導体製造工場で、CVD装置の排気ダクトに残留したモノシランが発火し、ダクトから建造物に燃え広がる事故が発生しました。
重傷2(1名は後日死亡)、中軽傷3名の事故となっています。
CVD
装置のモノシランラインのMFCが流量を過大に供給したことにより、CVD装置チャンバーで反応できなかった多量のモノシランが、後段にある排ガス処理装置へ流れ込みました。
しかも、その燃焼式除害装置に供給される筈の酸素はなぜか止まっており、結果として未処理のモノシランが除害装置の更に下流のダクトに侵入し、そこにあった空気と反応して自然発火したのが原因とされています。
この事例ではダクトの材質を不燃材にする、排気ダクトの共通化を避け1装置に1ダクトとする、ダクトに風速センサーを設ける、火災検知センサーを取り付ける等の対策が取られました。


本ブログとしてはMFCが過大なモノシランを流したと言われていることに関して、Decoの考察を加えておきます。
この事件でMFCの流量センサーが微粉末による閉塞をしていたと推定されています。
MFC
の流量センサーが閉塞して流れないのに、なぜ過大な流量が流れてしまったのか?本ブログを続けて読んでいる読者ならすぐわかるかもしれませんが、初読の方の為に説明をしましょう。
モノシランに限らず、半導体製造プロセスで使用するガスはクリーンなものが選定されていますし、フィルターにより異物の混入を幾重にも防ぐ構造になっています。
なのに微粉末がMFCに侵入していたというのは、おそらくはモノシランが反応して生成したSiO2ではないでしょうか?
この微粉末がMFCに侵入しセンサーチューブを閉塞させている状況を図で示します。

 

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巻線式分流構造をとる半導体製造装置用MFCの場合、MFCに入ってきたガスはセンサーと層流素子(バイパス)に分流されます。
ここでセンサーに異物で詰まりが生じていた場合、センサー管にはガスは流れないので、センサーの上流から下流に熱移動が生じず出力は0となります。
分流した層流素子側の流路は詰まりでガスが流れ無いほどの状況ではなかったと仮定しましょう。
MFC
測定値:PV値(流量出力)<目標値:SV(流量設定入力)の状態をPV=SVにする為に、操作量MV(バルブ電圧)を増やして対応しようとします。
しかし、詰まりで閉塞しているセンサー管には流れは生じませんから、PV=0の状況は変化しません。
その為、MV値は最大値となってバルブを制御、つまりMFCの流量制御バルブが全開で維持されてしまうのです。

これがこの事故で生じたMFCの異常に過大な流量制御を起こした不具合の原因と思われます。言い換えると、この事故の原因はMFCに生じた不具合ではありますが、MFCの流量制御系自体は“正常な動作”を続けた結果だったのかもしれません。

(Deco
が現場を検証したわけではないので断言は避けます。
これはあくまでMFCのセンサー管が微粉末で詰まった場合、“MFCとしては正常な流体制御結果”から、モノシランガスでは大きな危険が発生することを説明し、注意を喚起するための考察です。)


【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

真・MFC千夜一夜物語 第278話 マスフローでこのガスを使う時は注意しよう! その10


もう一つのMFC千夜一夜物語が掲載されている日本工業出版さんの「計測技術」誌 20194月号(3/25発売)ではマスフローコントローラ(MFC)、マスフローメータに異物が混入した際のトラブルシュートを解説しています。

 

 

<モノシランが引き起こした事故事例>


特殊高圧ガス恐ろしさの代表例としてモノシランを取り上げましょう。
Deco
がマスフローの営業でデビューしたころに安全教育で必ず取り上げられたガスがモノシランでした。
シラン系ガスは半導体、太陽電池、光ファイバーなどの製造プロセスでよく用いられていますが、前回ご説明したとおり、常温で大気に放出され空気に触れると発火する危険性を持っています。
よく勘違いされますが、モノシランを窒素などで希釈して濃度1%未満の混合ガスとして使用しても、その特性は同じです。
「希釈してあるから安全」とは考えない方がいいガスです。
また、リーク箇所から早い流速で漏れ出したモノシランはいきなり燃えずに空気に混合し、その後に激しい爆発を起こすこともある厄介な性質を示します。

 

モノシランの悪名を知らしめたのは、1991年に発生した大阪大学での爆発事故でしょう。
プラズマCVD装置で実験中にモノシランの容器が突然爆発し、飛散した容器の破片で死者2名、軽傷者5名の人的被害と、都市ガスおよび有機溶剤に引火し火災が発生したことで4教室(300m2)を焼失してしまいました。
当時モノシランの外部リークによる発火の危険性は既に国内で事故事例がありましたので、事故が起きた研究室でも容器をシリンダーキャビネットに入れ、その内部を常時排気して除害装置に導かれるようにしていました。事故原因は同じシルンダーキャビネット内にあった亜酸化窒素とモノシランの混合でした。下図で問題の生じたフローを示します。
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(
今回の説明に必要な部分だけ摘出して図示したものなので、事故が生じた配管系のすべてを網羅したフロー図ではありません。)


モノシランと亜酸化窒素は装置への供給系では交わらないように設計されていましたが、両ガスの窒素パージラインだけは配管を共有しており、逆止弁とボール弁で亜酸化窒素がパージラインには流れ込まないように設計されていました。
亜酸化窒素側の逆止弁の内部構造部品であるOリングが何らかの原因で破損した為に逆止弁が本来の機能を果たしてなかったのではないかと推測されています。

亜酸化窒素が窒素パージラインを通じてモノシラン容器直近に到達して混合し、バルブ操作で生じた断熱圧縮、もしくは静電気で着火し、炎がモノシラン容器に到達し爆発したのではないかというのが調査の結論でした。
逆止弁のメンテナンスは当然必要ですが、根本的に反応することで危険な状況を作り出すガスがパージラインといっても同じ配管でつながれていたことが根本問原因であり、この事件を省みて、以降は法令で禁止されるようになったのです。

 

この事件を通じてモノシランの危険性が認識されるようになり、半導体の層間絶縁膜CVD用途でもモノシランの代替も進みましたが、やはりこのガスの需要は多くあります。

十分な知識がないままに機器選定や配管施工、そして設備導入や運用を行うのは大変危険です。

優秀で前途のある学生さんが命を落としたというこの悲惨な事件の記憶は、風化させてしまってはいけません。
ガス系の仕事に携わるものとして、常に自身とお客様、協力会社さんが危険と向き合っているという認識を忘れないようにしたいとDecoは常に思っています。
 

 【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

EZ-Japan(イージージャパン)Deco こと 黒田です。 2014年6月開業です。流体制御機器マスフローコントローラーを中心に”流体制御関連の万(よろず)屋”として情報発信しています。 日本工業出版「計測技術」誌で”マスフロー千夜一夜物語”の連載中です。
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