EZ-Japan BLOG since 2017 真・MFC千夜一夜物語

EZ-Japanブログは、真・MFC千夜一夜物語という流体制御機器=マスフローコントローラ(MFC)の解説記事をメインに、闘病復帰体験、猫達との生活が主なコンテンツです

塩素

真・MFC千夜一夜物語 第403話 MFCの流量はなぜずれるの? その7

熱式マスフローコントローラー(MFC)のユーザーから、「MFCも流量出力は変化が無いのに、どう考えても流量がずれているように思えるのですが・・・」という問い合わせを頂く事があります。
一つの原因はゼロシフト、もう一つの問題は分流比の変化から生じます。

塩素が水分と反応して生じた腐食により異物が生成され、流量センサーに詰まりかけると、MFCの内部で分流比の変動が生じてしまいます。
塩素の設定流量よりも流量が大量に流れてしまうというのは、プロセス上は大変な事態です。
MFCの設定信号(S.V.)と流量信号(P.V.)は一致しているので、その不一致をモニターしている装置側のインターロックにもかからず、そのまま不良を生産し続けてしまうので、停めようがありません。

「いやいや、今の半導体製造装置はウルトラクリーンな配管構成が徹底されているので大丈夫だろう!」という意見もあるかと思いますが、マスフローの構成部品の中にはそうでもない箇所があります。
それはこのセンサー管の内面なのです。
内径0.35~0.5mm程度のSUS316Lチューブ内面という狭い流路を平滑に仕上げるのは難しいものです。
センサー管の内面研磨、表面処理に関しては、各メーカーも実施していますし、筆者も現役時代色々と検討しましたが、なかなか上手くいかないものです。
内面研磨処理は注射針の要領で中空糸研磨という方法があり有効ですが、電解研磨や表面処理を行った場合、それらが確実に施されているかを検証する方法が無いのです。

しかもセンサーチューブは、本来ステンレスの直管で、それらの表面処理をしてから、U字に曲げるのですから、曲げ部の内面はどうなるかという問題もあります。
更にセンサー部の通電時は常に80~100℃の熱が加えられています。
塩素ガスが残留した水分と反応するのには、温度が高い方が良いという困った条件までそろってしまいます。(逆に100℃で水分を枯らすことができるという知見もありますが・・・)

この為、塩素ラインではまめにMFCを交換するルールで運用しているユーザーが多いのです。今のところ装置のチャンバーを利用したビルドアップ法等で、相対的な流量変化を検知してMFCを管理していくしか方法が無いかもしれません。
 
熱式MFCで生じる「流量異常」というトラブルに関して解説を行いました。
「MFCの流量出力には変化が無いのに、どう考えても流量がずれている。」という現象は実はMFCにとって一番見つけにくい異常事態です。
ゼロシフトは日常の管理でまだ発見可能だが、分流比が変化する事に関してはお手上げです。
その為、発見が遅れる傾向にあり、見つけた時には大きな損害が生じていた事もありました。
2000年以降はMFCの流量検定機能というものを重視するユーザーも現れました。
プロセス中のガスを流している状態でMFC自身が流量異常を診断するイン・サイチュ・フロー・ヴァリフィケーション(In-Situ Flowmeter Verification)という思想です。

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実流量値を測定するのではなく、MFCの制御流量の相対的な変化を比較する事で、MFC内部で密かに進行している見えない変化を検証する仕組みが多いですね。
だが、腐食性ガスによる腐食で異物が発生するような環境で、その検定機構が正常に作動しているのか?という問題もあり完全な予防策とは言えません。
巻線型分流構造のMFCを用いるユーザーは、こういった分流構造故の特性をよく理解して運用して欲しいとDecoは考えてます。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan


真・MFC千夜一夜物語 第402話 MFCの流量はなぜずれるの? その6

熱式マスフローコントローラー(MFC)のユーザーから、「MFCも流量出力は変化が無いのに、どう考えても流量がずれているように思えるのですが・・・」という問い合わせを頂く事があります。
一つの原因はゼロシフト、もう一つの問題は分流比の変化から生じます。

本来ある一定の分流比であったセンサー管とバイパスとの流量比が崩れると、どうなるのでしょうか?
ここで今回の解説の主題である「S.V.=P.V.の状態であるにもかかわらず流量異常が発生する」につながるのです。
例えばバイパスに異物が詰まって流れが悪くなった場合、仮にセンサーに10SCCM流れた場合、層流素子には90SCCM流れるから、流量は100SCCM流れているはず・・・という当初の設定が、センサーに10SCCM流れていても、層流素子に80SCCMしか流れなければ、P.V.上では100SCCMでも実流量は90SCCMしか流れていないという現象が発生してしまいます。
(実際は分流比が変化するので、こんな簡単な足し算ではありません。あくまでイメージとしてお考え下さい。)
配管のどこかでシラン系ガスが酸素と反応してSiO2の白い粉が発生し、それがMFCに流れ込んだ場合や、コンプレッサーからの圧縮空気の水分や異物がドライヤーやフィルターで除去しきれずにMFCへ入り込みバイパス部分にそれらが残留してこういった現象が生じやすいです。 

 
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センサーに異物が詰まって流れが悪くなった場合、この傾向は反対になります。
流量信号<実流量という異常を起こします。
MFCでは流量信号を元にバルブ開度を制御しているので、流量が多く流れてしまう現象が生じます。
この流量が過大に流れるとう現象は、過少に流れるよりも大きなトラブルを起こす可能性があります。(アセチレンバーナーで危うくユーザーが火傷しかけた事例を以前連載で紹介したかと思います。)

この現象は特に塩素ガスを用いるMFCで頻出します。
半導体製造装置のドライエッチャーで塩素を使いアルミ配線をエッチングする工程で使用されるMFCは、この問題に悩まされ続けてきました。
塩素ガス自体はマスフローの接ガス材質であるSUS316Lに対して腐食性を持ちません。
でも、水分と一緒になると塩酸(HCl)となり、激しい腐食を引き起こす性質があるのです。
水分といっても、塩素ガスラインへ水を入れたりする配管を意図的に組む人はいませんよね?
問題は配管に残留する微量な水分なのです。
研磨された平滑な金属面ならば良いのですが、少しでも凹凸があると、その凹みに入り込んだ水分は、真空引きやベーキングを行ってもなかなか除去できません。
そこに塩素ガスを導入し、しばらく使い続けると、そのくぼみの部分から腐食が始まってしまうのです。
そして、その腐食により異物が生成され、センサーチューブが閉塞してしまい、分流比の変動が生じてしまいます。
設定している塩素の流量よりも、いつの間にかかなり多めの流量が流れてしまっていたので、プロセス上は大変な事態が生じてしまうのです・・・怖いですね。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan


真・MFC千夜一夜物語 第246話 バイパスはトラブルの元なの? その5

もう一つのMFC千夜一夜物語である日本工業出版さんの「計測技術」誌 2018年2月号(1/25発売)掲載「マスフロー千夜一夜物語<質量流量計の基礎>」連載第42回は、熱式流量センサーを用いる際のキーワードとなる“コンバージョンファクター(CF)”に関する解説記事です。

さて、マスフローコントローラ(MFC)&マスフローメーター(MFM)の最大のトラブルは、センサーチューブとバイパス(層流素子)の分流比が何らかの原因で初期値より変化することなのですが、特に注意すべきアプリケーションとして、コンプレッサーやブロアで大気を吸引して押し込む場合、または吸引ポンプで大気を捕集する場合、いずれも大気という我々が生活している空間に存在する空気(ボンベで販売されている“乾燥空気“とは異なります。)をマスフローへ導入する場合のご説明を前回は致しました。

今回はマスフローの内部で反応して異物を生成するガスの場合です。
これらの反応性の高いガスは、半導体製造装置でプロセスガスとして多く用いられるものが多いです。
代表例では塩素(Cl2)が挙げられます。
塩素はドライガスの状態では、マスフローの接ガス材質であるSUS316に対して腐食性を持ちませんが、水分と一緒になると塩酸(HCl)となり、激しく腐食を起こします。
ドライエッチャーで塩素を使いアルミ配線をエッチングする工程で使用されるMFCではこの問題が、長く問題となってきました。
水分といっても、塩素ガスラインへ水を入れたりする配管は誰も組みません。
問題になったのは、配管に残留する微量な水分です。
研磨された平滑な金属面ならば、良いのですが、少しでも凹凸があると、そのへこんだ個所に入り込んだ水分は、真空引きやベーキングを行っても飛んでいってくれない事があります。
そこに塩素ガスを導入し、しばらく使い続けるとそのくぼみの部分から腐食が始まってしまうのです。
そして、その腐食により今回問題になっている異物による分流比の変動が実際生じていました。
設定している塩素の流量よりも、いつの間にかかなり多めの流量が流れてしまって、プロセス上は大変な事態が生じているのに、MFCの流量値=設定値のままで変動していなかったので、装置側のインターロックもかからず、そのまま不良を生産し続けてしまう問題が生じたのです。

「いやいや、今の半導体製造装置はウルトラクリーンな配管構成が徹底されているので大丈夫でしょう!」というご意見もあるかと思いますが、マスフローの構成部品の中にはそうでもない箇所があります。
狭い流路で平滑に仕上げるのが難しそうな場所・・・そう、ここです。
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今回ご説明している分流構造のマスフローのセンサーと層流素子(バイパス)ですね。
内径1mm以下のキャピラリが集まる場所です。
バイパスは一部構造を狭い流路のキャピラリ方式でなくしたものもあります。
ですが、センサーチューブはどのメーカーも大きくは変わりません。センサーチューブの内径は、細いメーカーで内径0.35mm、太くても0.8mm程度とDecoは記憶しています。
この径のステンレスチューブの内面研磨、表面処理に関しては、decoも現役時代色々とやりましたが、なかなか上手くいきません。
センサーチューブ内面研磨処理仕様は、まだメディカルで使用する注射針の要領で中空糸研磨という方法があります。
分析装置メーカーのお客様から教えを請い、そちらの外注先を紹介いただき、センサーチューブの研磨試作をお願いしたりと、色々工夫をしました。
ですが、電解研磨はお手上げです。
正確に言えば電解研磨や表面処理をすることはできますが、確実にそれらが行えているかを検証する方法が無いのです。
しかもセンサーチューブは、本来ステンレスの直管で、それらの処理をしてから、逆U字に曲げます。
となると、曲げ部の内面の状況は・・・・ですよね。

また、センサー部は熱式流量センサーの要であり、通電時は常に80~100℃の熱が加えられています。
塩素ガスが残留した水分と反応するのには、温度が高い方が良いので、温度環境的にも腐食が発生しやすい箇所なので本当に参りました。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

EZ-Japan(イージージャパン)Deco こと 黒田です。 2014年6月開業です。流体制御機器マスフローコントローラーを中心に”流体制御関連の万(よろず)屋”として情報発信しています。 日本工業出版「計測技術」誌で”マスフロー千夜一夜物語”の連載中です。
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