EZ-Japan BLOG since 2017 真・MFC千夜一夜物語

EZ-Japanブログは、真・MFC千夜一夜物語という流体制御機器=マスフローコントローラ(MFC)の解説記事をメインに、闘病復帰体験、猫達との生活が主なコンテンツです

応答性

真・MFC千夜一夜物語 第385話 流量制御バルブとアクチュエーター その5

2022年最後の真・MFC千夜一夜物語です。
マスフローコントローラー(以下MFC) の流量制御を司る流量制御バルブとそのアクチュエーターに関して再び解説していきましょう。

前回はソレノイドアクチュエーターを用いた流量制御バルブのお話でした。
これに対して、日本のMFCメーカー((株)堀場エステック、日立金属(株)、(株)リンテック)が採用しているのが、第3の方式となるピエゾアクチュエーター搭載型流量制御バルブです。
ピエゾとは圧電素子の一種で、ある結晶構造体に機械的圧力を加え変位させると、この圧力の大きさに比例して電圧を発生する原理(=正圧電効果)を応用していて、実際はこの逆で「ある電圧をかけることでで、結晶構造体が変位する(伸びる)」(=逆圧電効果)を利用しているのです。
変位量はナノメータレベルの微小な単位です。
これでは素子単体ではバルブは、ほんの少ししか動かないで、図にあるように複数を積層スタックすることで使用されています。
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それでも機器に内蔵できるサイズのスタックでは、マイクロメーターオーダーしかストロークは稼げないのです。
故に決してストロークが必要な大きな用途で使用できる訳ではないのですが、その応答性能と何よりも発生力の大きさを評価され種々の産業機器に組込まれ様々な用途で使われています。

業界で最初にピエゾをMFCに組み込んで実用化したのは、日本のエステック社(現(株)堀場エステック)でした。
当初、ピエゾは湿度に弱く、ショートして機能喪失する事例も見受けられたそうです。
その為、信頼性でソレノイドに劣るイメージがあったのですが、スクリーニング工程の改良と、ピエゾを管封入する構造が開発されてからは、信頼性も向上、今に至っています。
前述のように日本のMFCメーカーのお家芸として、高速応答、高分解能、大発生力を謳い、MFCの技術進化の階段を一段登らせた技術あなのです。

日本ではピエゾがMFC用アクチュエーターとしてデビューして、品質が安定してきた時期に「ピエゾ搭載のMFCは応答性能が良い」というのがMFCに関して知識のある層で定説となっていたが、これは必ずしも正解ではない事は既に何回かこのブログで解説してきましたね?
正確な表現にするとピエゾアクチュエーターはソレノイドアクチュエーターより応答性能が速いというのは事実なのですが、MFCの応答性能として考えた場合は、ピエゾタイプMFCだからといって、必ずしもソレノイドタイプMFCより応答性が良いとは限らないという表現になります。
既に何度も解説しているので、ブログ読者の皆さんも理解頂いているかと思います。
MFCの応答性能はバルブのアクチュエーターだけで決まるわけではないからっですね。
熱式流量センサー、特に一般的な巻線タイプ熱式流量センサー自体の応答性能が、ソレノイド、ピレゾ両アクチュエーターよりもはるかに遅い為に生じる問題です。
つまりMFCの応答性能を律束しているのはアクチュエーターではなく、流量センサーなのですね?その証拠に直接ガスに接触するMEMSタイプ熱式流量センサーは同じ熱式でも応答が速い事は知られています。
それとソレノイドバルブの組み合わせたMFCが、巻線型流量センサータイプとピエゾの組み合わせよりも安定した高速制御が出来ているのをDecoは見知っています。

次回更新は2022年1月10日(火)となります。
では、皆さん、良いお年をお向け下さい。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

真・MFC千夜一夜物語 第327話 MFCの応答性 その3

前回はマスフローコントローラー(MFCの応答性に関して、流量制御バルブの構成部品であるアクチュエーターが、ピエゾが?それともソレノイドか?は、MFCとしての応答性能を決める決定的な要素ではない事をお話ししました。

今回はセンサーを見てみましょう。

 

センサーで代表的なのは、皆さんも良く御存知の巻線型です。

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巻線式分流構造流量センサーの一般例 出典:EZ-Japan

 

これに対して最近増えているのがチップ(MEMS)型です。

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MEMS式流量センサーの一般例 出典:EZ-Japan

 

そして、古くからある熱線式風速計をルーツに持つインサーション方式になります。

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インサーション式流量センサーの一般例 出典:EZ-Japan

 

あくまで一般論で言わせて頂ければ、これらのセンサーの中で、応答性能で最も不利なのは、巻線型です。

なぜならば他の2種類のセンサーは、測定対象である流体に直接触れる事で流体の温度を測定しているのに対して、巻線型は細径のSUSチューブの外周にニクロム線を巻き付けている為に、直接流体には接触せず、SUSチューブを介して熱のやり取りを行っている分、不利だからです。

もちろんそれ故に腐食性流体に強く、半導体製造プロセスのような特殊ガスを使用することで成り立っている装置産業には無くてはならないものなのですが、流体への接触が可能な流体(例えば空気や窒素)に限っては、巻線型は応答性能では最初からディスアドバンテージを背負っていると言えるのです。

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MFCの応答性 出典:EZ-Japan

前回から使っているMFCの応答性能を構成するチャートで示すと、「熱の移動量を流量へ換算して流量信号として取り出す」という部分の流量センサーが担当する仕事が速ければ速いほど、MFCとしての応答性能は向上する事になります。

今までこの部位が巻線型のMFCを使っていたユーザーが、アクチュエーターはソレノイドのままで、センサーをMEMSモデルのMFCに変えてみた場合、非常に良好な応答制御性が得られて驚かれるパターンを何度もDecoは見てきています。

もし可能なら、試してみられると良いかと思いますよ。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

真・MFC千夜一夜物語 第326話 MFCの応答性 その2

前回はマスフローコントローラー(MFCの応答性に関する定義をご説明しました。

比較する物差しが同じでないと意味がありませんからね。

それでなくてもMFCの応答性というスペックは、色んな誤解を生じてきたのです。

今でも顧客さんとお話ししていると言われるのが、「このMFCはピエゾアクチュエーターを積んでいるから、応答が速いですよね?」という認識です。

これは×ではありませんが、必ずしも〇ではりません。

MFCの応答性を構成している要素を下図に示します。

 

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 ここでは熱式流量センサーを搭載したMFCをモデルとしています。

上流/下流で対になった流量センサーの配置された細いパイプへ分流された流体が流れ込み、上流の熱が下流へ移動をします。

その量をブリッジ回路で取り出して流量へ換算します。

換算するというのは、温度補正や直線性などの各種補正も入るという事です。

最近のデジタルMFCではセンサーからの微細なアナログ出力をADコンバーターでデジタル信号へ変換してから行われます。

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こうして流量信号(PVとして出力された信号は、制御回路にある調整計(PID制御回路等)で外部からの流量設定信号(SVと比較・判断され、SV=PVとなるように、バルブ操作量(MV)が決定し、アクチュエーターに向かって指示されるのです。

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ここまでお話ししてくるとお判りいただけるのですが、アクチュエーターの応答性の勝負はこの最後のMV値が設定・可変されてからなのです。(一番上の図で赤い点線で示した部分)


故に
MFCの応答性能はアクチュエーターへの依存は少ないことがわかりますね?

たしかに単体比較ならば、ピエゾアクチュエーターはソレノイドより速いのですが、MFCの応答性を問うならば、当然MFCというパッケージで考えないといけないという事なのです。

 

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

真・MFC千夜一夜物語 第325話 MFCの応答性 その1

最近でこそあまり競わなくなったイメージがありますが、Decoが営業になった1990年代はMFCの応答性精度の数字がどれだけ良いかを競う時代でした。
応答性と精度という項目は、MFCが単独で保証できる性能ではなく、どんな環境で使ってもカタログスペックを発揮できるわけではないという点を最近のユーザーさんは良くわかってきておられるようですね。

下図、SEMI Standard  E17 “ マスフローコントローラの過渡特性テストのガイド” での定義を見てください。
現在マスフローメーカーが仕様に記載する定義・用語は、そのほとんどがこれに準じていると思っていいでしょう。

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この定義が普及するまでは,MFCの応答性能表記はメーカーによりまちまちでした。
設定信号(SV値)が入力されてから、流量信号(PV値)が反応するまでの無反応時間(だんまり時間(Dead Time)が含まれます。
これを無視してPVが反応してからの時間を記載したり、無反応時間を含むトータルの応答時間としてステップ応答時間(Step Response Time)で記載する為、流量が設定値の±2%範囲の下限、設定値の-2%側を通過した瞬間で記載していたメーカーもありました。
これには大きな問題点があります。
先の図を見て頂ければお判りいただけると思いますが、ステップ応答を良く見せる為には、例えオーバーシュートが過多であってもOKなのです。

整定時間(Settling Time)の定義が理解されるまでは、こういったオーバーシュート含みの応答波形で出荷されるMFCに当たると、顧客はプロセスに問題を生じてしまい、困ってしまったのです。
特に半導体製造装置や一部の分析装置はリアクターを高真空に維持してプロセスを行います。
これではせっかくポンプで排気してAPCで高真空を保っても、ガス導入時のオーバーシュートによるサージで真空度が悪化してしまいます。

止む無く安定するまで、貴重なプロセスガスをベント側へ捨てて、流量が安定してから切り替えるという無駄を強いられることになってしまいます。
高価なガス、しかも一部は毒性の高いガスであったりしますから、それを純度の高い状態で捨てられると、下流の除害システムにかかる負担も大きくなりますので、こういった傾向は「応答性能を良く見せているだけで、なにも良い事は無いではないか?」という気付きに繋がり、整定時間でMFCの応答性を議論するようになったのです。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

アクチュエーターの性能の違いが、MFCの決定的差ではないということを教えてやる!

MFC豆知識のコーナーです。

前回と違って、えらく長いタイトルですが、某ロボットアニメの赤い人のセリフ モビルスーツの性能の違いが、戦力の決定的差ではないということを教えてやる”のパロディです。

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よくこのMFCはピエゾだから応答が早いという話をされるお客様がおられますが・・・
間違いではないけど、正解でもありません。
確かに第1世代のサーマル(=熱膨張式)アクチュエーターと比較すれば早いでしょうが、そもそもMFCの応答性能はアクチュエーターの性能だけでは決まらないからです。

MFCとしての応答性能は下図のようなプロセスを経て、流量が制御されるまでの時間を表しています。

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この中で圧倒的に遅いのは、実は初段の部分=センサーでの熱移動の感知です。
そもそも熱というものは、そんなに素早く移動しません。
熱式流量計というものは、数ある流量センサーの中でも鈍いセンサーなのです。
例えば歪を捉える圧力センサーと比べたら10倍は遅いでしょうね。

「あっ!だから圧力式MFCの方が応答が早いんですね!」
というご意見も、あまり当たっていません。

MFCの応答性、それはPVを出力する流量センサー、SV=PVとなるよう比較・判断・操作する調整計、調整計からのMVで動く流量制御バルブ(アクチュエーターを含む)、この3つが積み上げた結果の値なのです。

MFC千夜一夜物語 第301夜からのお話は、この辺りをお話ししてみましょうか?
このお話の終着駅にある結論は、いささかとんでもないものになりそうなのですが・・・
下手するとMFC不要論にもなりかねない、マスフローマイスターが廃業しなくてはならないような怖いお話かもです。

お楽しみに!

【MFC豆知識】 by Deco EZ-Japan



EZ-Japan(イージージャパン)Deco こと 黒田です。 2014年6月開業です。流体制御機器マスフローコントローラーを中心に”流体制御関連の万(よろず)屋”として情報発信しています。 日本工業出版「計測技術」誌で”マスフロー千夜一夜物語”の連載中です。
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