EZ-Japan BLOG since 2017 真・MFC千夜一夜物語

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液化ガス

真・MFC千夜一夜物語 第324話 MFCで液化が起きた!その4

MFCで液化ガスが再液化場合の対応をお話ししてきました。

液化しないようにするには、MFCを低圧損構造にして、狭い空間から広い空間に液化ガスが抜ける際に生じる“断熱膨張”を食い止める事が重要です。

MFCのバルブオリフィスが一番あぶないところなのですが、それ以外にも狭い空間から広い空間に抜ける箇所があります。

そう、流量センサーですね。

 

MFCでもう一つ流速が大きく変わる狭い空間→広い空間という流路がある流量センサー。

既に何度かこのブログで解説しているように、市場に普及しているMFCのほとんどは巻線式分流構造の熱式流量センサーを採用しています。

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この構造の場合、センサーチューブ径が0.35-0.7mmと非常に狭く、コンビを組む層流素子(バイパス)も細い流路の集まりで構成されています。
通常、こういったセンサーを液化ガス仕様で用いる場合は、対応が難しいモデルも多いのですが、中にはブロンコストさんのLOW-ΔP-FLOWシリーズのように、通常仕様モデルよりセンサー径やバイパスのキャピラリ径を太くした低圧損モデルをラインアップしているメーカーもあります。
(センサー径を変えたりすると、センサーと層流素子の分流比も変わりますので、コンバージョンファクターも低差圧モデル用に特別設定され管理されています。)

 

以前紹介したMASS-STREAMTMのようなインサーションタイプ熱式流量センサーはスルーフロー、分流の無い全量測定はセンサー構造になっています。
図にあるようにセンサー部の流路がストレートフローでシンプル構造なので、絞りが存在しません。

つまりここでの断熱膨張が生じにくい構造なのです。

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ただしこの構造のセンサーは腐食性ガス用にメタルシール化するのが難しく、例えばMASS-STREAMTMならヒーター、温度センサーをSUSのスリーブで保護しているので、アンモニアや塩化水素程度でしたら耐えますが、根本の取り付け部分はエラストマーOリング材(バイトン、カルレッツ)を選択して使用する関係上、液化ガスで腐食性が非常に強いガス=三フッ化塩素やフッ酸には対応が難しくなってしまう弱点があります。

 

MEMSセンサを流量センサーに使用したマスフローも、スルーフロー構造モデルが多いのですが、こちらはMEMSセンサー自体の耐食性で更にガスを選ぶことになってしまいます。

対応流体として、“腐食成分(塩素、硫黄、酸など)を含まない乾燥気体であること”という前提がありますので・・・

なので、あまり液化ガス用というモデルを見る事は無いですね。

 

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

 

真・MFC千夜一夜物語 第323話 MFCで液化が起きた!その3

マスフローコントローラー(MFC)内部で液化しないようにするには、①温度を上げる、②圧力を下げる の2つです。

今回は②圧力を下げるのお話をしましょう。


実はこの表現は必ずしも正しくありません。

供給圧力はボンベレギュレーターを操作すれば下げる事は可能ですが、ボンベから配管の最終端にあたる部分までのトータルの抵抗=圧力損失を下回るわけにはいかないからです。

例えばアンモニアの蒸気圧は、常温で0.7MPa程度です。

それに対してMFCの圧損が0.25MPa+その他の圧損が・・・・と計算していって総和が0.75MPaになってしまっては、アンモニアを流すことはできませんね?

言い換えるならば、これは配管を構成する機器の圧力損失を下げるという事なのです。

特にMFCの圧力損失を下げる、低圧損タイプMFCは非常に重要なアイテムとなります。

 lowdeltaP

LOW-ΔP-FLOWシリーズ 【出典:ブロンコスト・ジャパン(株)】

 

供給圧力を下げると、なぜ液化が防げるのか?これは、液化が主に狭い空間から広い空間に液化ガスが抜ける際に生じる“断熱膨張”により発生するからです。
熱の出入り無しで圧力(
P)や温度(T)、体積(V)が変化する状態変化を断熱変化といいます。
PV/Tが一定値になるので、Vが拡大するとTPは下がります。
これを
MFCのバルブオリフィス付近で考えてみると下図のようにオリフィスと言う絞り部分を通過した液化ガスは一気に体積が増えます。
そこで熱を与えていなければ、必然的に気体の状態方程式に従って温度、つまりガス温が下がります。それにより液化ガスの再液化が生じてしまう訳です。

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この問題を解決する為には、できるだけ通過するガス圧力を下げる事です。その為に、オリフィス部分での圧力損失を小さくした特別なチューニングを施した流量制御バルブが必要になります。

具体的にお話しすると、オリフィス径を大きくすることです。

絞りがきついとその分、圧損も大きくなりますから、通常ならばその流量域では使わないような大流量用オリフィスを使います。

でも、これだけでは流量が大きく流れてしまうので、MFCの流量制御バルブの場合、その代わりにバルブのリフト量=ストロークを小さくするのです。

大きなオリフィスのバルブで少しだけ開いてガスを流すのですね。


言葉で言うのは簡単ですが、この少しだけ開いて流量制御するのは非常に難しい技術です。

本来はアクチュエーターの流量制御レンジは広く取る事で、バルブの分解能的にも、ヒステリシス的にも余裕を持って楽に制御ができます。

それをわざわざ狭めてしまい、しかも少しバルブを開ければ大量にガスが流れる大きなオリフィスがついていますから、こういった低差圧仕様のMFCは、圧力条件が少しでも外れた場合にハンチングしたり、流量が流れなくなってしまうリスクを背負っているのです。


こういった液化ガス用低差圧仕様
MFCをオーダーされる場合は、圧力条件と必要とされる流量域、ガス温度を確認頂き、MFCメーカーと密な打ち合わせを行って下さいね。

 

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

真・MFC千夜一夜物語 第322話 MFCで液化が起きた!その2

マスフローコントローラー(MFC)内部で液化が生じた際の対応に関してです。

低蒸気圧ガス=液化ガスは常温で液体、もしくは限りなく液化しやすい状態のガスです。

アンモニアのように、沸点が-33.42℃、常温で0.7MPa(g)の蒸気圧ですと、供給圧を上げすぎると即液化してしまいます。

MFCのように、1mm以下の狭い流路で構成される機器にとって、液化が生じる事、もしくは液化した流体が内部に入り込む事で、色々なトラブルを起します。前回はバルブでのつまりを図でお見せしましたが、センサーや層流素子でも下図のような困った現象が生じます。

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液化しないようにするには、①温度を上げる、②圧力を下げる の2つです。

温度を上げるには、ヒーターと温調器が必要になります。

昇温する場合は、配管システム全体を昇温する必要がありMFCだけを昇温しても効果は見込めません。

確かにMFCは前述の通り、狭い流路で液化の可能性が高い場所ではありますが、そこを昇温することで、今度はそれ以外の場所でコールドスポットが生じてしまうからです。

液化との戦いは、このコールドスポットとの戦いです。

以前、Decoが伺ったお客さんでは、空調の風が直接三塩化ホウ素(BCl3)ラインに当たっていたがために液化が生じていたことがありました。
とりあえず断熱材を風が当たっていた配管に巻く事で液化現象を解決できたこともあります。
(もちろん空調の風を避けるよう配管レイアウトを変えるのが、最善手なのですが。)

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そして温調で気をつけないといけないのは、MFCのような配管に繋がっている機器でも熱容量の大きなものには、通常のSUS配管部を温度調整している温調器とは、分けて制御してもらいたいということです。(上図) 
そして、下流に向かって温度勾配を付けるように昇温することですね。

 

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

 

 

真・MFC千夜一夜物語 第284話 マスフローでこのガスを使う時は注意しよう! その16

【お知らせ】

今まで本ブログは、"EZ-Japan BLOG since 2017”と "真・MFC千夜一夜物語”@niftyココログ版の2つで同時連載進行を行って参りましたが、既に告知の通り2019/5/11をもって@niftyココログ版の方を終了させていただきました。こちらのブログ"EZ-Japan BLOG since 2017"版での連載は、変わらず続けて参りますので、どうか千夜一夜=1001話にたどり着く迄、宜しくお願い申し上げます。

 

もう一つのMFC千夜一夜物語が掲載されている日本工業出版さんの「計測技術」誌 20196月号(5/25発売)では混合ガスをマスフローコントローラー(MFC)、マスフローメーター(MFM)で使用する際、そして混合ガスをMFCで作る場合の解説を行っています。

 

液化ガス

前回から引き続いて、バルブオリフィス部で断熱膨張を起こしやすい液化ガスを使用する際の注意事項に関する解説です。

前回はMFCで液化ガスを使用した際に液化を起こさないようにする方法として、MFC及び配管周辺にヒーターを配置する際の注意事項でしたが、今回はMFC側での対策についてお話ししましょう。

 

MFCでの圧損を小さくする低差圧仕様が、その対策です。

圧損を小さくするポイントは、コントロールバルブのオリフィス部です。

282回で解説しましたが、液化の原因は、断熱膨張による冷却効果が生じる為です。

物体が外との熱の出入りなしにその体積を増した場合、断熱膨張を起こし温度が下がりますね?

実際にMFCのバルブで生じている現象を再度下図で見てみましょう。
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この問題はオリフィス通過後の体積の膨張ですね?

オリフィスがある以上、膨張は生じるにしても、ここを通過する流速を落とせば、断熱膨張による温度低下を下げることができます。

流速を落とすには、このオリフィス部の絞りを緩くすればよい=圧損を低くすればよい訳です。

これを下図に示します。

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オリフィスを太くして、バルブのリフト量(ギャップ)がそのままでは流量が流れすぎてしまうので、この低差圧仕様を作る際のキモになるところは、バルブのリフト量を小さくすることです。

調整を変えたら簡単でしょ?と思いがちですが、アクチュエーターの最小分解能との相関でそう簡単なことではありません。微細なリフト量の制御が特異なピエゾアクチュエーターを使ったモデルの方が楽に作れますが、ソレノイドアクチュエーターでも対応は可能です。

メーカーによってはオプション化していたり、型番コードを別に設定したりして、低差圧仕様モデルを設定しているので、液化ガス用のMFCを検討する際には、相談してみましょう。

 

「じゃあ、全部のMFCを低差圧モデルにすればいいじゃないか?」

という声もありそうですが、この構造にも弱点があるので、必ずしも色々なガス種で使えるわけではありません。

まず、制御可能圧が低くなるのはいいのですが、逆に差圧が大きくなると流量が流れすぎてしまい制御不良を起こしやすくなります。

特に低差圧仕様のMFCを水素やヘリウムのような軽いガスで用いると、大きなオーバーシュートから、ハンチングが収まらなくなる現象を起こしてしまう事があるのです。

つまり目的に特化したが為に、MFCが持つ本来の特性である”汎用性”を失ってしまうのですね。

 

低差圧仕様のMFCをお求めの際は、くれぐれも液化ガスの種類、対応できる圧力条件、必要な最大流量等の情報をもってMFCメーカーに相談されることをお奨めします。

 

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真・MFC千夜一夜物語 第283話 マスフローでこのガスを使う時は注意しよう! その15

【お知らせ】

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液化ガス 

前回に引き続いて、バルブオリフィス部で断熱膨張を起こしやすい液化ガスを使用する際の注意事項に関する解説です。

 

パージ、真空引きから始まって、禁断のドライヤーまで持ち出しても、一度液化した流体はMFCの内部から簡単には抜けてくれません。

下手するとセンサー部へ逆流して、センサー管やバイパス(層流素子)のチューブを閉塞させてしまう可能性もあります。(下図 青く着色部)

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こうなると装置を停止させて、MFCを交換するしかありません。しかし、反応性の強い、半導体製造プロセス用材料ですとMFCを交換しよう配管を開放した際に、空気と反応して生成物を作ってしまう事もあります。

良い例(悪い例?)がジクロロシラン(SiH2cl2)です。

Decoの現役時代、内部でジクロロシランが液化したMFCが修理で戻ってくると、中は真っ白になっている事が多かったです。

これはSiと空気中のO2が反応して、SiO2を作ってしまったからです。

こうなると部品(センサー、バイパス、オリフィス等接ガス部品)は全交換、ボディは洗浄で何とかなればいいですが、ダメな場合はこちらも新品交換で、下手したら新品が買えるくらいの、目が飛び出るような高額修理見積がメーカーから出てくることになります。

しかも、影響はMFCだけではなく、前後の配管にも異物の汚染が確実に発生してしまい、下手すると1ライン丸ごと配管系を総取り換えになってしまうのです!そうなるとMFCを交換するよりはるかに長い時間の装置停止となってしまいます・・・

 

このように液化ガスをMFC内部で液化させてしまうと、流量制御異常でプロセスに問題は生じるわ、交換作業で装置を止めなくてはならないわ、挙句に配管が汚染されるわ、挙句に高額の修理費用と長期の装置ダウン・・・と大変な事ばかりです。

要は液化してからの対策ではなく、できるだけ液化させないようにする対策が重要なのですね?

 

MFCでの液化ガス対策は、以前はヒーターによる昇温が行われていました。

MFCにヒーターを巻くのですが、まずこの時点でアウト!な事例を下図左に示します。
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MFCのバルブオリフィスで断熱膨張が起きるのに、上部の基板が収まっている場所を昇温しても意味がありませんね?

むしろセンサーの温度補償回路に悪影響を及ぼすだけです。

正解は右の底面部分のSUSブロック部です。

 

昇温は断熱膨張による液化にはそれなりの効果があります。

しかし、これには落とし穴もありまして、ヒーティングした部分と、していない部分の境界や、配管機器の熱容量差によって生じる昇温ムラによるコールドスポットの発生で新たな液化を起こしてしまった事例があるのです。

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 特にMFCは配管、そして他の機器(バルブやラインレギュレーター)と比較すると大型になり、特に底面SUSブロック部分はかなりのボリュームがありまので、熱容量が大きい傾向があります。

上図のように昇温する際は、MFCだけは独立したヒーター&温調器をあてがって頂いて、温度勾配を付けた厳密な温度管理をして頂く必要があるのです。

次回はMFCのバルブ部の工夫で液化を逃れる方法に関してお話ししましょう。

 

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

 

 

EZ-Japan(イージージャパン)Deco こと 黒田です。 2014年6月開業です。流体制御機器マスフローコントローラーを中心に”流体制御関連の万(よろず)屋”として情報発信しています。 日本工業出版「計測技術」誌で”マスフロー千夜一夜物語”の連載中です。
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