EZ-Japan BLOG since 2017 真・MFC千夜一夜物語

EZ-Japanブログは、真・MFC千夜一夜物語という流体制御機器=マスフローコントローラ(MFC)の解説記事をメインに、闘病復帰体験、猫達との生活が主なコンテンツです

熱線式風速計

真・MFC千夜一夜物語 第428話 MFCの歴史を振り返ろう その4

マスフローコントローラ(以下MFC)の歴史を振り返っています。
DecoがMFCメーカーから離れ、一介のコンサルタント、エヴァンジェリストとして過ごして10年になります。
これを期にMFCという不思議な工業製品の技術動向をその歴史を俯瞰しながらまとめて行きたいと思います。
今回からは巻線型熱式流量センサーのお話です。

熱線式風速計を換骨奪胎したと思われるのが熱式流量センサーです。
これには大きく分けて2つの形態があります。
巻線型とMEMS型です。
どちらもその測定原理の基礎は同じです。 

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ヒーターにより一定に昇温されている流れ場に上流から流体が流れることにより、上流と下流のセンサー(測温抵抗体)の感知する温度分布が変化します。
上流側は流体に熱を奪われて温度が低下し、その熱は逆に下流側の温度を上げます。
この温度差(ΔT)と流れる流体の質量流量(Qm)とは、ある一定の量までは比例関係を示す事を利用して、流量を測定することが可能になるのでしたね?
そして、流量式にあるように、流体固有の物性である定圧比熱が、大きな要素として存在しており、熱式流量計が持つ流体毎のコンバージョンファクター(以下CF)は、ここから導き出されています。(ただし、定圧比熱の比がそのままCFにはならないので注意してください。)

上図で巻線型の代表例として三線式と二線式を示しています。
巻線型は名前の通り、電気抵抗の大きな細径のニクロム線(ニッケルとクロムの合金)を、流路である細管の外周に巻き付けた巻線をヒーターと測温抵抗体として用います。
三線式は、中央にヒーターの役割を果たす巻線と、その上流下流に等距離で測温抵抗体の役割を果たす巻線を対に配置しています。
各々の役割は、発熱、上流側測温、下流側測温と非常にシンプルです。
ブルックス(ITWジャパン(株))のMFCに多く見られ、その流れをくむブロンコスト(ブロンコスト・ジャパン(株))でも一部のモデルで採用している方式です。
三線式の特徴は各々の巻線の役割がヒーターと測温抵抗体に分離している構成にありますが、、測温抵抗体自体が外部からの熱影響を受けやすいという弱点を持っています。
その為、このセンサーを採用しているMFCでソレノイドアクチュエーターを流量制御バルブの制御に用いている場合、ソレノイドが大きな電磁力を発生させた際に発する熱が流量センサーへ温度影響を及ぼさないよう、ソレノイド部をケース外に露出したデザインを採る事が多いのです。

それに対して二線式は、対になった上流下流の巻線にヒーター&測温抵抗体の役割を持たせているのが特長です。
二線式の方が三線式より優れているという意見を耳にすることがありますが、流量センサーとしての性能に大差はありません。
センサー製造工程で巻線を1本減らすことができる利点はありますが・・・
確かに自己発熱型なので温度を高くすれば、外界からの温度影響を少なくできるという利点はあるのですが、だからといって流量センサーとしての熱影響が無くなる訳ではないのです。

そもそも熱式センサーは、熱の移動を測定原理にする以上、周囲温度影響を必ず受けるので温度補償回路を持っています。
流体温度と周囲温度との間に極端に差がある場合、その補償に用いる温度情報をどこで測っているかによっては、温度補償が不適切になる事があり、それこそが一番の問題となります。

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真・MFC千夜一夜物語 第427話 MFCの歴史を振り返ろう その3

マスフローコントローラ(以下MFC)の歴史に関して振り返っていきたいと思います。
DecoがMFCメーカーから離れ、一介のコンサルタント、エヴァンジェリストとして働き始めてからもう10年になります。
これを期にMFCという不思議な工業製品の技術動向をその歴史を俯瞰しながらまとめて行きたいと思っています。

MFCの熱式流量センサーのオリジンであると思われる熱線式風速計のお話をさせて頂いてます。
なみにこの熱線式風速計の原理を直接流量計に応用した製品として、インサーション型熱式流量センサーが挙げられます。
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分流構造を持つ巻線型熱式流量センサーと比較してスルーフロー構造であることが幸いしいて、圧力損失増大、異物侵入や、圧力条件の変動での分流比が崩れることによる再現性能低下という問題が生じにくい特性があります。
つまり、少々汚れた流体を流す用途や、低圧力損失で大流量を流す用途には最適な方式なのです。

逆にこの方式の弱点としては、流体を選ぶ点が挙げられます。
特に軽い水素やヘリウムの場合、測定構造が仇となり、センサーが設置されている流路中心部をパスしていくような必ずしも適切な流れを生成できないので流量測定が正確に行えないことが挙げられます。
1990年代以前は、アナログ回路でしか直線性補正を行えなかった為、直線性が悪いこと=レンジアビリティが狭い事も問題視されていましたが、現在ではデジタルによる多点補正機能の採用で、実用上では大きな問題が無くなっていいます。
ただ、それでも分流型熱式流量センサーを搭載した流量計よりは、ラフな精度仕様で定義されることが多いのは確かです。
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インサーションタイプ熱式流量センサー搭載 MASS-STREAMシリーズ
出典:ブロンコスト・ジャパン(株)

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真・MFC千夜一夜物語 第426話 MFCの歴史を振り返ろう その2

マスフローコントローラ(以下MFC)の歴史に関して振り返っていきたいと思います。
DecoがMFCメーカーから離れ、一介のコンサルタント、エヴァンジェリストとして過ごして10年になります。
これを期にMFCという不思議な工業製品の技術動向をその歴史を俯瞰しながらまとめて行きたいと思います。
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ピトー管式風速計に対して熱線式流速計の原理は上図にあるように、キングの式を基にして熱線からの放熱量と風速のバランスから流速を導き出しています。
熱線式流量計は高いSN比と応答性能を特長としています。
熱線部に細径の白金線等を使い、それを流れ場に金属の支柱で曝し、細線に電流を流すと発熱が生じます。
加熱された金属線は流体の速度が上がれば上がるほど、冷却されますね?
金属は高温となると抵抗値が大きくなる傾向があるので、流速の変化に応じて生じる抵抗値の変化を捉えれば流速を測ることが可能になるのです。
熱線式というネーミングは、この金属の細線を発熱させることから来ています。
抵抗値が変化したら、その分電流量を変化させる方式です。

これに対して現在の熱線式風速計では熱線の温度を常に一定にする=金属線の抵抗値を一定に保つ定温度方式が主流となっています。
回路上は複雑になりますが、フィードバック制御のおかげで応答性能が向上する利点が大きいからです。
この定温度型熱線式流速計の基本回路は下図のような構成です。

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熱線はホイットストンブリッジの抵抗としてバランスをとっている為、ブリッジに加える電流量を変化させることで、常に一定温度に熱線を維持するフィードバック回路となります。
熱線式流速計は流れ場の物性値が一定ならば正しい流速値を示します。
逆に流速が一定ならば物性値の変化を示す事も可能な流速計です。
その為、周囲温度変化には当然左右されてしまいます。
この問題には温度補償回路を設けることで対応が可能になりました。
ブリッジ回路に温度補償用の測温抵抗体を追加することで、流体の温度変化によって生じる抵抗値変化を用いた温度補償を行っているのです。

熱線式風速計はその性格上、ブリッジ回路から出力される電圧信号と流速の関係は絶対的なものではなく、あくまで相対的なものです。
従って必ず校正が必要になります。
ピトー管等の流体の物性値に左右されない測定式を利用した流速計をリファレンスとして検量線を引いて運用されることになります。
今まで解説してきたMFCの熱式流量センサーと類似性があることに気づかれましでしょうか?
 
【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

真・MFC千夜一夜物語 第425話 MFCの歴史を振り返ろう その1

今回からマスフローコントローラ(以下MFC)の歴史に関して振り返っていきたいと思います。
このブログも425回目です。
ここまでお読みいただいている読者の皆様には大変感謝しております。
DecoがMFCメーカーから離れ、一介のコンサルタント、エヴァンジェリストとして過ごして10年になります。
これを期にMFCという不思議な工業製品の技術動向をその歴史を俯瞰しながらまとめて行きたいと思いました。
MFCが使われるようになって半世紀以上が経過し、今、MFCに触れる世代は当たり前のようにMFCで流量制御を行っていると思います。
しかし、MFCの成り立ちや本質に関して理解している世代は、既に一線から退いてしまわれているのが現状です。
色々な事情から、先人達の貴重な知識の伝承が、次世代へ確実に行われているとは言い難いように思います。
こういった状況下で、Decoが経験してきた様々なMFCに関する知見を次の世代に伝える事を使命にこのブログを始めました。
少しでも皆様のお役に立てれば、幸いです。
 
まずは、MFCの要である流量センサーの歴史からです。
熱式流量計で用いられている流量センサーのオリジンは熱線式風速計ではないかとDecoは考えています。
流れを知るには流体の圧力、流速を捉える必要があります。
特に流速で使用される流速計では風車のようなベーン式、レーザー式、超音波式等がありますが、その中でも実用化が早かったのはピトー管式です。
ピトー管は飛行機の先端や翼端に設置されていて、速度計として使用されています。
過去にこのピトー管の閉塞で痛ましい事故が何度も生じたことがあるくらい、ジェット機にとっては命ともいうべきセンサーなのです。
ピトー管式の測定原理は下図にある通りです。

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流体の圧力(全圧)はベルヌーイの定理から動圧と静圧の総和です。
このとき動圧p(全圧‐静圧)は流速uの二乗と比例関係にあることを利用して流速を導き出します。
ただし流速の二乗に比例するというこの流量式、そして差圧を測定するデバイスの性能上、流速の低い領域を苦手とする傾向があるのです。

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真・MFC千夜一夜物語 第247話 バイパスはトラブルの元なの? その6


 もう一つのMFC千夜一夜物語である日本工業出版さんの「計測技術」誌 20183月号(2/25発売)掲載「マスフロー千夜一夜物語<質量流量計の基礎>」連載第43回は、マスフローコントローラ(MFC)に比べてマイナーな存在のマスフローメータ(MFM)のアプリケーションに関する解説記事です。

 

MFCMFMの最大のトラブルは、センサーチューブとバイパス(層流素子)の分流比が何らかの原因で初期値より変化することという説明から、実際のアプリケーションでのトラブル事例を二つ見て頂きました。

 

「じゃあ、どういうマスフローを選べばいいの?分流構造のないマスフローなんてあるの?」というお問い合わせを頂くのですが、現時点でDecoがお勧めしているのは、インサーションタイプの流量センサーを持ち、バイパスレスで全量流量測定を行っているMASS-STREAMシリーズになります。

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                     【MASS-STREAM 出典:ブロンコスト・ジャパン()

 

インサーションセンサーに関して、改めて説明しましょう

このセンサーは一般的なマスフローで使われている熱式流量センサーの、ご先祖に当たる(と、Decoが思っている)熱線式流速計の原理を基にしています。

熱線式“風速”計とは何でしょう?

風速を測定するには代表的なのが、飛行機の機首等についているピトー管です。

飛行機のピトー管は高速飛行時の速度計として使用されています。

(ピトー管の説明は文字数の関係で省きます。)

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それに対して熱線式風速計とは、上図にあるように、キングの式を基にした熱線からの放熱量と風速のバランスから流速を導き出す方式です。

熱線式流量計は高いSN比と応答性能を特長としています。

熱線部に細径の白金線等を使い、それを流れ場に金属の支柱で曝し、細線に電流を流し発熱させます。

加熱された金属線は流体の速度が上がれば上がるほど、冷却されますね?

金属は高温となると抵抗値が大きくなる傾向があるので、流速の変化に応じて生じる抵抗値の変化を捉えれば流速を測ることが可能になります。

熱線式というネーミングは、この金属の細線を発熱させることから来ているのですね。

 

初期の熱線式流速計は、定電流制御でした。

常に一定の電流を流す回路構成の為、熱線の抵抗値が変化したら、その分だけ電流量を変化させます。

これに対して現在では熱線の温度を常に一定にする=金属線の抵抗値を一定に保つ定温度方式が主流となっています。

回路上は複雑になるが、フィードバック制御のおかげで応答性能が向上する利点が大きいのです。

 

180313_02

 

定温度型熱線式流速計の基本回路は上図のような構成です。

熱線はホイットストンブリッジの抵抗としてバランスをとっている為、ブリッジに加える電流量を変化させることで、常に一定温度に熱線を維持するフィードバック回路となります。

熱線式流速計は流れ場の物性値が一定ならば正しい流速値を示します。

逆に流速が一定ならば物性値の変化を示す為、周囲温度変化には当然左右されます。

この問題には温度補償回路を設けることで対応しています。

ブリッジ回路に温度補償用の測温抵抗体を追加することで、流体の温度変化によって生じる抵抗値変化を用いた温度補償を行っているのです。


熱線式風速計はその性格上、ブリッジ回路から出力される電圧信号と流速の関係は絶対的なものではなく、あくまで相対的なものであり、必ず
“校正”が必要になります。

ピトー管等の流体の物性値に左右されない測定式を利用した流速計をリファレンスとして検量線を引いて運用された方が良いのです。

 

ここまで読んできて、あれっ?と思いませんでしたか?
なんだかマスフローの熱式流量センサーの解説に出てくる文章や単語と似ている箇所がありますよね?
だからこの熱線式風速計が、熱式流量センサーのオリジンだと思えてくるわけです。


次回はこの方式のインサーションセンサーを搭載したMASS-STREAMの解説を行います。

 

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

 

 

EZ-Japan(イージージャパン)Deco こと 黒田です。 2014年6月開業です。流体制御機器マスフローコントローラーを中心に”流体制御関連の万(よろず)屋”として情報発信しています。 日本工業出版「計測技術」誌で”マスフロー千夜一夜物語”の連載中です。
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