EZ-Japan BLOG since 2017 真・MFC千夜一夜物語

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超高温

真・MFC千夜一夜物語 第359話 超高温用マスフローの現状 その7

久しぶりに高温用マスフローコントローラ(以下MFC)マスフローメータ(以下MFM)に関して、情報のアップデートをしていきたいと思います。
250℃超高温マスフロー(MFCとMFMの総称として用いる)の開発のお話の続きです。 

(株)フジキンさんでの250℃超高温マスフローの開発もう一つのエポックは、アクチュエーターでした。
ここで超高温下での使用に耐えるアクチュエーターがいきなり見つかると言った都合の良い開発秘話はありません。
現実に彼らが採用しているアクチュエーターは、150℃対応のピエゾアクチュエーターなのです。
超高温となる250℃の流体からの温度影響を及ぼさないためにセイコーインスツル㈱のCo-Ni合金SPRONを用いたダイヤフラムで仕切り、更に低膨張素材で構成されたエクステンション構造と称されている仲介機構を開発する事で流量制御を可能にしたのです。
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 出展:(株)フジキン

高温用マスフロー自体は質量流量計であるマスフローの限定された市場向けバリエーションの一つに過ぎません。
特に250℃という超高温向けは、ALD等の最新半導体製造プロセスの特定材料向けに限定して性能を発揮する特殊なマスフローです。
液体MFCを用いた気化供給システムに対して、それらでは対応が難しい材料をハンドリングできる存在として、新しい半導体プロセスに向けに、高温用マスフローは再び光を放つ存在となりました。
流量センサーとアクチュエーターの超高温250℃対応という難しい技術課題を見事にクリアした(株)フジキンさんの開発力は称賛されるべきでしょう。

今後の250℃超高温マスフローに対する他メーカーのアプローチにも期待したいところですね。

【参考文献・ウエブサイト】
*“株式会社 フジキンにおける半導体業界向けガス供給システムの開発について”
 池田和弥 生産と技術  第60巻 第1号(2008)

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真・MFC千夜一夜物語 第358話 超高温用マスフローの現状 その6

引き続き高温用マスフローコントローラ(以下MFC)マスフローメータ(以下MFM)に関して、情報のアップデートをしていきたいと思います。
250℃超高温マスフローの開発のお話の続きです。 

超高温マスフローを製品化したのは、(株)フジキンでした。
彼らは150℃で止まっていた高温用マスフローの限界温度を一気に250℃まで引き上げたのです。
それを可能にするには2つの技術面でのブレイクスルーがありました。
これは前述の高温用マスフローの2つの問題点をダイレクトに解決するものでした。

1つは流量センサーの温度問題です。
彼らは既に臨界式(圧力式)流量センサーを常温用フローコントロールシステムであるFCS用に開発していました。
FCSの構造は、本ブログでも何度か解説していますが、図のような原理から成り立っています。

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オリフィス上流側絶対圧力が下流側絶対圧力の約2倍以上になるとオリフィスを通過するガスの流速は音速となり、ガスの流量はオリフィス上流側圧力に依存することになります。
これは臨界膨張条件と呼ばれています。
この状態で流量は上流側圧力を変動させた時にだけ変動します。
通常の熱式流量センサーを搭載したMFC(サーマルMFC)は上流側圧力変動の影響により制御流量が激しく揺らぎますが、FCSは上流圧をAPCで一定に保つ限り、流量が揺らがないという特長をもっているのです。
サーマルMFCのように供給圧力変動の影響を受けないので、前段にラインレギュレーターが不要となり、ガスシステム全体のコストダウンと設置面積の削減にも貢献できます。

このFCSの測定には圧力センサーが使用されています。
これが超高温対応への鍵となったと思えます。
圧力センサーは高温条件下では寿命の点で熱式ほど短命ではありません。
しかし、高温流体への対応には、確実に不安定要素が増え、寿命も常温用圧力センサーよりは短くなるはずです。
通常の半導体用ウルトラクリーンタイプ圧力センサーでも、従来は150℃以上の対応が難しい領域と言われていました。
感圧部の耐温度性能、受圧するダイヤフラムの歪みへの熱影響というファクターがあるからだと思います。
圧力式にしたからと言って、一朝一夕に250℃超高温マスフローが作れた訳ではなく、そこには産みの苦労があった筈なのです。

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真・MFC千夜一夜物語 第357話 超高温用マスフローの現状 その5

久しぶりに高温用マスフローコントローラ(以下MFC)マスフローメータ(以下MFM)に関して、情報のアップデートをしていきたいと思います。
今回から250℃超高温マスフローの開発のお話です。 

高温マスフローを用いる場合、10年ほど前までは150℃という壁がありました。
これは前述の通り、流体温度をあげれば上げるほど、感度を得る為には熱式流量センサーのヒーティング温度も上げていかなければならないという根本問題に加えて、MFCの場合は流量制御バルブのアクチュエーターの耐温度性能が150℃を超えると難しくなってくるからです。
ほとんどの場合、高温MFCのアクチュエーターは、ピエゾ素子を採用しています。
これは流体の特性上、ソレノイドアクチュエーター+パペットバルブでは耐食性能や耐温度性能で及ばないからです。
高温流体をソレノイドの鉄芯に使う電磁性ステンレスKM45に直接触れさせたくはないので、金属製ダイヤフラムで仕切りたいのですが、金属製ダイヤフラムをソレノイドアクチュエーターの発生力では押し切れない、やはりピエゾしかない、という流れです。
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更なる超高温用への展開が二の足を踏んでいる内に、図にあるような液体MFCで流量制御した液体を後段で気化するという方式がCVD装置のTEOSの気化制御技術として成功を収めたのを受けて、寿命が短く不安定な高温用マスフローの役割は、液体マスフロー気化器の組み合わせに取って代わられてしまいました。
高温用マスフロー自体は、マスフローメーカー側の負担も大きいのも問題でした。
常温用よりさらに高い温度で使用する高温用の流量センサーは、歩留まりが悪く、巻線型流量センサーの中でも、良質な個体を選び出して使用しなくてはなりません。
しかも、その調整、校正作業は恒温槽で実際の校正温度まで上げてから取り掛かる必要があるので、非常に手間がかかる製品となっていました。
その手間は「1台の高温用MFCの注文があった際は、3台分の部材を準備して組立、調整を施し、その中で一番良い特性を示しているものを出荷しているらしい」という、まことしやかな噂話が流布される程だったのです。
当然、装置メーカー、ユーザーでもそういった点を、液体MFC+気化器のシステムで画期的に軽減していきたのでしょうし、何よりもチャンバーの手前まで常温液体で搬送できる供給系は、色んな意味で設備管理上の負担が少なくて済みます。

こういった流れに対して待ったをかけたのが、シリコンLSIのさらなる性能向上要求でした。
高誘電率膜、強誘電体薄膜、低誘電率層間絶縁膜、そして新しい金属材料薄膜が必要とされ、それらの膜を成膜ー原子層目から完全な元素組成比に制御する必要が生じたのです。
使用される原料は、常温で液体または固体のものが多く、超高温条件まで加熱しなければ十分な蒸気圧が得られないものもありました。
しかも、常温で固体、もしくは非常に粘度が高いゲル状の液体には、液体MFCは詰まりの問題などで対応が難しいのです。
そこで再度高温用マスフローというカテゴリーでの250℃超高温MFCの開発が要求されたのでした。

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真・MFC千夜一夜物語 第356話 超高温用マスフローの現状 その4

久しぶりに高温用マスフローコントローラ(以下MFC)マスフローメータ(以下MFM)に関して、情報のアップデートをしていきたいと思います。
高温用マスフロー(MFCとMFMの総称)の問題点は、もう一つあります。
これは高温用マスフロー自体の問題と言うよりは、高温用マスフローの運用上の問題です。
高温用マスフローが自ら昇温機能を持って目標温度まで温度を上げる機能を有している事は希です。
セルフヒーティング型と呼ばれるヒーターユニットをオプション装着した製品もあるが、それはあくまで装着したオプションにその機能があるという事で、本体を購入した装置メーカーやユーザー側で昇温方法を準備する方が圧倒的に多いのです。
昇温する方法は、図のように恒温槽を用いるか、配管系にヒーターを配置して、温調器で制御するかです。
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昇温するときに留意すべき点は、コールドスポットを作らない事です。
コールドスポットがあると、せっかく気化した材料が再液化してしまいますからね。
高温用マスフロー部のヒーター温調は他の配管系と独立させて温度制御を行う方が、より効果的な場合もあります。
高温用マスフローのSUS316Lのボディは他の配管機器や配管より確実に容積が大きい=熱容量が大きいので、一緒に温度制御をかけた場合、温度センサーの位置によっては高温用マスフローだけが充分に昇温されずコールドスポットと化して、材料が再液化するトラブルが生じてしまいます。
そもそもは昇温して気化した材料を再液化しないよう配管系を温めるのですから、基本的に図のような「下流側に行くに従ってヒーター温度を上げる=温度勾配を付ける」という手法が推奨されます。 

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しかし、気化器以降の配管システムに最適な温度勾配を与えるというのは、実はなかなか難しいことなのです。
闇雲に下流側の温度設定を高くするだけでは、上手くいかない事が多いです。
なぜならばマスフロー以外の配管機器にも個々に熱容量差があるからです。
また、ヒーターから均一に熱をかけることも難しいです。
ヒーターの温度制御に使われる測温抵抗体の設置場所による温度情報の誤差、そして温度制御を行う温調器自体の性能や器差等、詰めていくべき要素は多々あります。
また、テープヒーターの巻き方や設置手法にも施工者の熟練度の差も考えなくてはいけません。
配管にはストレートな部位だけではなく、曲げがあったり、エルボー、クロスなどの継手があったりするので、ヒーターを密着させるのはなかなか難しく、どうしても空気の層が間に入ってしまい効率の良い伝熱を妨げます。
その点では配管を組むやり方より、最近の半導体製造装置のガス系で用いられているIGS(Integrated Gas System)での昇温システムの方が、ヒーター施工スキルの差が生じにくいという利点がありますね。

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真・MFC千夜一夜物語 第355話 超高温用マスフローの現状 その3

久しぶりに高温用マスフローコントローラ(以下MFC)マスフローメータ(以下MFM)に関して、情報のアップデートをしていきたいと思います。
高温用マスフロー(MFCとMFMの総称)の問題点を整理してみましょう。

高温用マスフローは、その特殊な構造が災いして2つの問題点を持っています。
1つは熱式流量センサーの寿命が短くなる事であり、もう一つは信号系がノイズに弱い事です。
寿命に関しては、割り切ってマスフローを交換していけばいいのではないか?という考えもあるかと思います。
ところが、半導体製造装置でマスフローを交換する為には、装置を一旦止めて対応しなくてははいけません。
TAT(Turn-Around-Time)の点から、そういったロスはできるだけ少なくしたいです。
それに寿命が1年と仮にメーカーが謳ったとしても、その間で経時変化が生じないわけではありません。
危惧される不具合はゼロドリフトです。
先述の通り、一般的に高温マスフローは常温のそれよりも高いセンサー温度設定になっています。
それは、センサーとして特殊な高温度域にフォーカスするためにセンサー感度を引き上げなくてはならないからです。
それ故、相対的にゼロドリフトのリスクは大きくなる傾向があります。
流量制御しているMFCが経時劣化で、ゼロがずれ始めると何が起こるか?これは何度か解説していますね?そう、制御しているガス流量の繰り返し性を悪化させてしまうのです。
これは常温用のMFCでも問題になることで、熱式流量センサーを使うマスフローに付きまとう問題です。
この現象はセンサー管の上流下流で対になった巻線の抵抗値のバランスが崩れる事で発生します。

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当然、温度が高い高温用センサーでは経年変化は激しくなります。
最終的に断線等の問題が起きた時点で「寿命」という表現をしますが、実際には寿命が来る随分前から、この対になった巻線の抵抗値のバランスは崩れ出しているのです。

ゼロはズレ分がそのまま測定された流量値に乗っていると考えて良いので、大きな流量誤差につながります。
精度±0.5%R(S.P.)といったのマスフローのカタログスペックに着目して選定しても、そのマスフローのゼロが1%ズレしまったら、測定流量の読値はそのまま1%ずれる訳で、余程こちらの方が問題なのです。
これは流量出力のゼロの位置で確認ができます。
こまめにゼロリセットを行って運用していれば、くり返し性への影響は少なくできます。
でも、そもそもゼロリセット頻度が上がるというのは、センサーの寿命が来る日が近いという事ですから、交換スケジュール、代替品の準備を計画しておかなければいけません。

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EZ-Japan(イージージャパン)Deco こと 黒田です。 2014年6月開業です。流体制御機器マスフローコントローラーを中心に”流体制御関連の万(よろず)屋”として情報発信しています。 日本工業出版「計測技術」誌で”マスフロー千夜一夜物語”の連載中です。
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