
マスフローコントローラ(MFC)にとって、アルゴンは窒素と並んで制御しやすいガスなのですが、少々厄介なところがあることはあまり知られていません。

EZ-Japanブログは、真・MFC千夜一夜物語という流体制御機器=マスフローコントローラ(MFC)の解説記事をメインに、闘病復帰体験、猫達との生活が主なコンテンツです
それではいってみましょう。
これはある意味当たり前と言ってしまえば終わりなのですが、ユーザーサイドでは知られていない事ですので取り上げます。
下図にあるインサーションタイプの全量測定型熱式センサーを搭載するマスフローと、巻線式分流測定方式のものとはCF値は共有されない。
アルゴンFS600SLMのMFMとして、巻線式分流測定方式F-113AC-1M0とインサーションタイプ全量測定方式のMASS-STREAM D-6370の比較を行ってみました。
ソフトが両者で異なりますので比較し辛いかもしれませんが、F-113AC-1M0のCFが1.422@100%FSに対して、D-6370のCFは2.017@100%FSなのです。
この2種類に関しては確かに熱式流量センサーを搭載しており、原理は同じ熱式流量計と考えてよいのですが、センサー構造が全く異なることから、別のマスフローであると考えなくてはなりません。
インサーション方式は、熱式流量計という名称で国内外各社から販売されており、現場で混在して使用しているユーザーが、マスフローとして一からげにして巻線式分流測定方式のCFで流量換算をされていたのを見かけたことがありますので、取り上げてみました。
“マスフローのラスボスの一つ”というのは大げさではとおっしゃる向きもありますが、かってはほとんどのマスフローメーカーが流体種とCFを一対一で表記=シングルCFで運用してきたことの信憑性にかかわってくる内容なのです。
今回の記事で分かってきたように、CFを1つで管理するのはかなり乱暴なことであり、複数のCFが存在することは認めなくてはいけません。
現在、多くのマスフローメーカーはCF表の公開をやめ、マルチガス・マルチレンジ マスフローに移行しています。
要はシングルCFの限界をユーザーから指摘され、実ガス流量保証という名のマルチCFへの移行を行っているのです。
マスフローを使用する上で、校正ガスである窒素(空気)と実ガスの相関は、決して流量式だけで算出できるものではありません。
温度、圧力、流量レンジとマスフローの分流構造といった膨大なファクターを踏まえて、実ガス流量に近づける努力をマスフローメーカーは行っている。
だが、あまりにも膨大な作業量が目の前には広がっており、問題はその解を得たところで、それが商業的な成功と結びつくのか?という経営サイドからの問いに対してどうするか?なのです。
「メーカーは製品の根幹にかかわる技術の蓄積と整備を蔑ろにしては、成り立たない。」筈なのに、昨今の日本メーカーの品質上の不祥事続きは、「目先の利益につながるか?どうか?」を優先しすぎたしっぺ返しではないでしょうか?
マスフロー業界として、CFというものを一度総括し、この先のマルチCFとしての標準化をどう進めていくのか?という指針を出していかなくてはならないとDecoは考えます。
オランダという人口では日本よりはるかに少ない国で、ガス種、圧力条件、温度条件、モデル構造別にCFデータベース作り上げ、製品の製造工程で運用するだけでなく、その成果を社内資産でとどめず、FLUIDATのようなWEB上のアプリで全世界のユーザーへ発信するブロンコスト社の姿勢は、日本のマスフロー業界は大いに参考とすべきなのではないでしょうか?
この試みに関しても、可能な限り本ブログでご報告していきたいと思っています。
【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan
さる1/11(金) 国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研) 臨海副都心センター 別館11階
会議室2(〒135-0064 東京都江東区青海2-3-26)にて、半導体製造ガス流量ワーキンググループ(SGF-WG)の説明会が行われ、参加してきました。
産総研 NMIJ (計量標準総合センター:National
Metrology Institute of Japan の略称) 流量計測クラブの傘下のWGとなるのですが、設立の背景に関して簡単にご説明しましょう。
半導体製造プロセスにおいて、マスフローコントローラ(MFC)の実ガス流量精度の向上について、エンドユーザーや装置メーカーから根強い要望があります。
それはDecoが現在、本ブログの連載記事“真・MFC千夜一夜物語”で取り上げている校正ガスと実ガスとの変換係数であるコンバージョンファクター(CF)の問題に関わっています。
(詳しくは“真・MFC千夜一夜物語 第264話 コンバージョンファクターは1つではない その1” からお読みください。)
近年、SEMI Standardの活動として、Live Gas Task Force を立上げ、実ガス流量の測定方法やCFの決定方法の標準化に向けたラウンドロビンテスト等を行ってきました。
SEMIでのTask Force活動は終了したのですが、継続して標準化活動を行っていく必要性を感じた有志により、SGF-WGの発足が検討され、今回その説明会が行われたのです。
Deco はSEMIでの活動の途中から参画していましたが、もちろんこのSGF-WGにも参加させていただき、少しでもお役に立てればと考えております。
説明会を見た限り、半導体装置メーカーさん、材料メーカーさん、そしてもちろんMFCメーカーさんからも積極的に参加を検討頂いているようです。
興味をお持ちになったMFC関係の方々(メーカー、システムビルダー、エンドユーザー)で参加を希望される方は、産総研 NMIJ 工学計測標準研究部門 気体流量標準研究グループ ご担当:森岡 様 (E-Mail:tssj.morioka@aist.go.jp)、 もしくは本ブログにあるDecoへのメッセージでお問い合わせください。
マスフローのパンドラの箱の一つであるCFと実ガス流量との問題に挑まれる有志はぜひ!
【MFCニュース】 by Deco EZ-Japan
2019年 亥年 新年あけましておめでとうございます。
皆様、いかがお過ごしでしょうか?
本年もマスフローコントローラ(MFC)&マスフローメーター(MFM)に関する記事を定期的にアップしていきたいと思っております。
どうぞ当ブログを宜しくお願いいたします。
2019年一回目の更新は、真・MFC千夜一夜物語 で、ラスボスCFとの戦いの第4回目をお届けします。
CFへの流量レンジ影響
第4回目ではマスフロー(MFC&MFMの総称)の流量レンジを変えることでのCFへの影響を確認してみましょう。
ブロンコスト社(Bronkhorst High-Tech B.V.)で、流体をアルゴンガスの 大流量MFMモデルでF-113AC-1M0を選定して、このモデルの流量下限フルスケールのFS600SLMと、上限のFS2500SLMを選んでみました。
それぞれ空気換算すると400SLM~1670SLMです。
ブロンコスト社で大流量モデルはコンプレッサーエアーが基準流体になります。
この流量レンジで純度の高い窒素ガスを校正用にドバドバとはは使いたくないですよね。
両レンジでCFが大きく変化しているのが下図でわかります。
600SLMでのCFは1.422@100%FS、ところが2500SLMでは1.562@100%FSです。
興味深いのは、FS2500SLMモデルの 250SLM@10%FSでのCFは1.404であることです。600SLMモデルの同じ流量ポイントとなる250SLM@41.7%FSで計算するとやはり1.404なのです。
CFの変化はアルゴンの流量レンジが大きくなるにつれ、1.422→1.568と大きな値に変化していきます。
今度は流体を変えて水素で見てみましょう。(下図)
ここでまた不思議な現象が確認されます。
水素ではアルゴンと逆の現象が起きるのです。
モデルの最小レンジであるFS400SLMでのCFは0.9766@100%FS、これが最大レンジであるFS1400SLMでは、なんと0.8735@100%FSとなっています。
アルゴンとは逆に流量レンジが大きくなるにつれ、CFは0.9766→0.8735と小さくなってしまうのです。
実はDecoはこのマルチCFの罠にしっかり嵌って、失敗をしたことがあります。
なまじっか経験が長い為に、“空気と水素のCFは、ほぼ近似していて1である。”というシングルCF時の知識で、「空気換算1670SLMのF-113AC-1M0が作れるのだから水素も同じはず・・・」とFLUIDATで確認せずに顧客仕様を決めてしまったことがありました。
蓋を開けたら0.8735倍の1459SLMしか流れないわけで、平謝りして納入前に流量レンジをFS1400SLMに下げてもらったのです。
まさに“生兵法は怪我の元”ですね?お恥ずかしい限りです。
今回の比較で興味深いのは、アルゴンも水素も25%FS程度の低流量域から100%FSまで大きくCFが曲がっていることです。
これは巻線式センサーで分流構造をとるマスフローにはつきまとう“分流比”の変動が要因と考えられます。
一般的な巻線型のマスフローで採用されている熱式センサーは、測定対象である流体を全量測っているわけではありません。
流量センサーに流れるのは5~10ml/min程度の流量であり、残りはすべて層流素子(バイパス)部を流れるように設計されています。
これはセンサー管内の流れを層流で維持する為であることは、今までの連載で何度か解説しましたね?
ここで問題になるのは、このセンサー管と層流素子の分流比率です。
その分流比率は、どんな場合でも一定にはならないのです。
高圧から真空(subatmosphericレベル)までの圧力条件、微小流量から大流量までの流量レンジで一定の分流比の維持は難しいのです。
また、ガス種により、アルゴン、二酸化炭素のような重いガス、水素のような軽いガスでは、自ずと校正に使用する基準ガスである窒素や空気とは異なってきてしまうのですね。
【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan
もう一つのMFC千夜一夜物語が掲載されている日本工業出版さんの「計測技術」誌 2018年12月号(11/26発売)では、マスフローのゼロシフトに対するゼロ調整に関して解説しています。
本ブログと併せてお読み頂けましたら、幸いです。
さて、本物語のラスボスの一つ“CFの信憑性”との戦いの最中です。
前回はCFへの温度影響を確認しましたが、今回は圧力影響に関してです。
Bronkhorst HIGH-TECH B.V.(以下ブロンコスト)がWEBで提供している“FLUIDATⓇonthe Net”(以下FLUIDAT) を使って今度は、ガスをアルゴンにして解説しましょう。
上図ではアルゴンガス、FS100SCCMのMFM での比較です。
今回は圧力条件(流体の供給圧)での比較となります。
マスフローの一般的な構造を下図に示しますが、ここでいう圧力は流量センサー管にかかる圧力になるので、一次圧のことを言い、MFCの際の二次圧や差圧は関係ありません。
*以前、UNIT社とそのフォロワーにあったMFC二次側に流量センサーを置く=流量制御バルブ→流量センサーという特異なレイアウトのMFCにとっては、ここは二次圧となるのですが、これではセンサー管内の圧力がプロセスで変動しやすくなり、あまり好ましくなかったのではないかとDecoは思っています。)
0.1MPa条件と、選定したMFMの圧力定格最大値である10MPaで比較してみましょう。
結果は0.1MPaで1.387@100%FSという、我々マスフロー業界の人間としては、CF表で馴染みのあるアルゴンのCF値1.4に近い値となったのですが、10MPaだと1.181@100%FSという驚きの数値となるました。
更に高い圧力でのCF変化を調べるべく、モデルを変えて定格40MPaまで耐えられるEL-FLOW F-131Mを選んでみます。
上図にあるように、40MPaでのCFは0.9587@100%FSと、これはもうアルゴンのCFとは思えない値まで下がっています。
前回の温度変化の影響よりも、気体が圧縮されることで密度が変化する圧力変化影響が非常に大きいのが見て取れます。
「これほど極端な高圧条件でマスフローを使わないので問題ない。」というユーザーが当然多いと思います。
因みにMFM F-111B-100の真空10kPa(A)での値は1.391@100%FSでした。
0.5MPaでの値は1.378@100%FS 0.8MPaで1.371@100%FSですから、例え高圧=1MPa未満であるからといって、CFへの圧力影響が皆無ではないことを、頭に入れておいてくださいね。
【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan