EZ-Japan BLOG since 2017 真・MFC千夜一夜物語

EZ-Japanブログは、真・MFC千夜一夜物語という流体制御機器=マスフローコントローラ(MFC)の解説記事をメインに、闘病復帰体験、猫達との生活が主なコンテンツです

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真・MFC千夜一夜物語 第423話 MFCの応答性能 その5

章を改めて巻線型熱式流量センサーを搭載したマスフローメーター(MFM)の応答がマスフローコントローラー(MFC)のそれよりも決して早くはない理由のお話です。
流体に腐食性ガス、毒性、可燃性ガスが多い半導体製造分野では、やはり流体に非接触である巻線型流量センサーが好まれます。
しかし、流体に直接触れない巻線型は応答性の面で不利な方式です。
巻線型流量センサーを搭載したMFCはどうやって応答性能を向上させたのでしょうか?

下図のように実際の流量に対して、巻線型流量センサーのブリッジ回路から得られる生の信号は遅れて出力されます。(あくまで遅れのイメージを説明する為の図ですので、あえて実流量を理想的なステップ応答波形にしていますが、実際はガスではそうなりません。)
この流量信号を用いて設定信号と比較し、流量制御バルブ開度の制御を行えば当然制御が遅れる事になります。
応答性の1秒以内とかいうのは夢の世界なのです。
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このままではよろしくないので、センサー信号に図のような微分信号を加味する方法が考案されました。
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これによりセンサーの応答性は若干改善されるのですが、半導体製造装置、特にエッチャー等で要求された高速応答と言うレベルには至りません。
応答が遅いというのは、流量制御ではただ単にガスの導入が遅れるだけではなく、下手すると過大なガスが流れてしまっているのに、流量制御が間に合わず、そのまま放置してしまいかねないので危険です。
そこで考えられたのが、前回の解説で登場した図なのです。

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【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

真・MFC千夜一夜物語 第422話 MFCの応答性能 その4

巻線型熱式流量センサーを搭載したマスフローメーター(MFM)の応答がマスフローコントローラー(MFC)のそれよりも決して早くはない理由のお話です。
前回は流体に直接接触するMEMS型は感度が良く応答が速いというお話と、それでもMFCのメイン市場である半導体製造装置では採用しづらい理由を解説しました。

流体に腐食性ガス、毒性、可燃性ガスが多い半導体製造分野では、やはり旧来のセンサーが流体に非接触である巻線型が好まれるのですが、だからといってその応答性能に満足されていたかと言えばそうではありませんでした。
では、巻線型流量センサーを搭載したMFCはどうやって応答性能を向上させたのでしょうか?
実はこの部分が今回のお話の巻線型熱式流量センサーを搭載したMFMの応答がMFCのそれよりも決して早くはない理由と密接に絡んでくるのです。
以前、MFMとMFCの応答がどのような構成であるかを図で御説明したかと思います。
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この図にあるように、MFMは流量センサーだけで構成されますので、熱の移動を流量に変換して流量信号として出力するだけです。
それに対してMFCはその流量信号を用いて、設定信号と比較し、流量制御バルブ開度の制御を行った結果、流量が制御されるのですから、どう解釈してもこの2つの図を比較する限りは、MFMの応答がMFCより遅い訳はありません。
確かにこの図ではそうなのですが、ではMFCで以下の動きがあったとしたらどうでしょう? 
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「えっ?それって流量信号が出力される前にバルブが動いているってこと?そんなことできるの?」と、思いますよね?
それができるんです。
次回からその仕組みをお話ししましょう。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

MFCに水が入ってしまった!

MFC豆知識です。
「ガス用のマスフローコントローラー(MFC)、オートマチックプレッシャーコントローラー(APC)に水分が混入してしまった!どうしたらいいか?」という御質問をよく頂きます。
MFC千夜一夜物語でも解説を行っているのですが、豆知識でもその対応をお話ししましょう。

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MFCとAPCの構造を図示してみました。
この2種は実は兄弟のような関係でして、センサーが流量を測る流量センサーなのがMFC.圧力を測る圧力センサーなのがAPCと考えてもらえばと思います。

この構造で水分が入った場合、バルブを全開にして上流から圧を上げた窒素のような不活性ガスでパージを試みて頂くのが、手っ取り早い方法です。

でも、そうもいかない場合があります。
それは両者の構造によるものです。
まずMFCの場合は・・・
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流量センサーと流量制御バルブどちらもです。
MFCの流量センサーは内径1mm未満の細いセンサーチューブと、同じくらいの径チューブの集合体であるバイパスで構成されていますので、ここに水分が入ると簡単に抜く事が出来ません。
そして流量制御バルブも流量レンジによりますが、オリフィス部とその周辺の空間にが細くなっていて水分が貯まりやすくなります。

APCの場合は・・・
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圧力センサーがダイヤフラムタイプの場合、非常にシンプルな流路になるのでまだいいのですが、やはり流量制御バルブ(APCのバルブはあくまで流量を制御して圧力を作り出すバルブでしたね?)はMFCと同様なのでやはり狭い流路があって水分が抜けません。

エタノールのような粘度の流体ならいいのですが、オイルやスラリーのように粘度の高い流体が入り込むとパージで抜くのは難しくなります。
その場合はメーカーのサービス窓口に相談いただいた方がいいですね。
その際はどういう異物が混入したかを正確に告知してください。
知らずに対応しようとしたメーカーのサービス担当が、危険な目に合わないように注意してあげていただきたいです。

MFC豆知識 by  EZ-Japan Deco

真・MFC千夜一夜物語 第421話 MFCの応答性能 その3

2024年、あけましておめでとうございます。
本年も本BLOGを宜しくお願いいたします。
年明けから令和6年能登半島地震、そして羽田の航空機事故と続きました。
犠牲になられた方々、そのご家族にお悔やみ申しげますとともに、
被災された方々が一日でも早く元の生活に戻れるよう祈っております。
わずかな金額ですが、EZ-Japanからも被災地への寄付をさせて頂きました。


さて、2024年もMFC千夜一夜物語を始めさせていただきます。
章を改めて巻線型熱式流量センサーを搭載したマスフローメーター(MFM)の応答がマスフローコントローラー(MFC)のそれよりも決して早くはない理由のお話です。
流体に直接接触するMEMS型は感度が良く応答が速いというお話をしました。では、なぜ、MFCのメイン市場である半導体製造装置ではあまり用いられないのでしょうか?

それは“直接流体に接触する”というMEMS型の利点が、半導体製造プロセスで使用されるガスでは仇になってしまう事があるからなのです。
MEMS型の代表的な構造を見てみましょう。
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上図にあるようにMEMS型の場合、流量センサーを構成するマイクロヒーターとその上流下流の測温センサーが流体に直接接触しています。
これが巻線型のような非接触、SUSチューブを介して熱の受け渡しをしているタイプよりも敏感なセンサーを作れる要因なのですが、半導体製造工程では塩素のような腐食性ガスを使用することもあるのでセンサーの劣化が懸念されます。
更にMEMSの場合、ボディ側への熱の逃げを避けるために、シリコンダイヤフラム上にMEMS技術で形成している事もあるので、このダイヤフラムの腐食、もしくは逆に反応による異物堆積によるもんだいもあります。
また、半導体プロセスでは危険なホスフィンのような毒ガスや、シラン系の可燃性ガスも存在しますので、ダイヤフラムの下にある空間にそれらが入り込んでなかなか抜けない=つまり置換効率が悪し構造になることも好まれません。(毒ガスに限らず、ガスの置換効率は重要視されます。)

こういったMEMSの構造上と特徴から、半導体プロセスでは避けられてしまったという歴史がありました。
Decoとしては、前述の深堀りRIE=ボッシュ工法の微小流量酸素ラインの制御にMEMS型を使用している海外の装置メーカーは存在しているのも知っていますので、「シリコン半導体用のエッチャーで酸素の微小流量&高速流量制御が必要なラインだけでも使えたら面白いのになぁ。」と考えていました。
半導体製造装置設計に携わる方々からすると、何を言ってるんだ!とお𠮟りを受けそうですが、MFC屋の立場だとMEMSのMFCは巻線型ではどうしても対応できない高速応答という分野で、素晴らしい結果を出してくれているのは確かなので・・・

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

真・MFC千夜一夜物語 第420話 MFCの応答性能 その2

巻線型熱式流量センサーを搭載したマスフローメーター(MFM)の応答がマスフローコントローラー(MFC)のそれよりも決して早くはない理由のお話です。
まずはおさらいで、熱移動を流量検出原理とする熱式流量計もセンサーが関節接触型の巻線型か?直接接触型のMEMS型か?で感度が異なるお話をしました。
 
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上図にありあますように、熱の移動でセンサーの抵抗値のバランスが傾いた差分をブリッジ回路で取り出すのが、熱式流量計の基本的な構成です。
その差分で得られる信号は相当微弱なものですので、それを後段で増幅したり、直線性を補正したりすることで0-5VDCといってリニアな流量信号へ加工している訳です。

微弱な信号であるが故に、それでも相対的に感度が良いというのはセンサーにとっては良いことづくめなのです。
まず利得が大きいので、SN比がより良い信号を得られます。
SN比は音響関係でよく使われる言葉ですが、シグナルノイズ比(Signal-to-Noise Ratio)の事です。
有効な信号成分(シグナル)と雑音(ノイズ)成分との量の比率のことですね。
シグナル中に含まれるノイズ量の比率を表し、この値が大きいほど信号の品質や機材の性能がよいことになります。

では、MFCの流量信号でノイズとは何でしょうか?
実は皆さんよくご存じのゼロドリフトのことです。
SN比がよい信号は、ゼロドリフトが相対的に少ない事になります。
巻線型センサーから取り出される信号はかなり微弱なので、その分後段での増幅を大きくしないといけません。
困ったことに、そうすることで自ずとノイズも増幅されてしまうのです。
つまりゼロドリフトの量も大きくなってしまうのですね。
ゼロの長期安定性の悪化はMFMやMFCの精度性能の維持に大きな悪影響を与えてしまうのです。

MEMS型の最も美味しいのは、直接流体に触れている事で、応答性が格段に速い事です。
これは巻線型では追いつけない領域です。
前回お話ししたお湯を素手で触るのと厚手のゴム手袋を着けて触るという例え話を思い出して頂ければ、納得いただけると思います。
この応答性の速さを評価して、深堀りRIE(Reactive Ion Etching)=ボッシュ工法の微小流量酸素ラインの制御にMEMS型を使用している装置もあるくらいです。(残念ながら最先端シリコン半導体用のエッチャーではありませんが・・・)
また、エアリークテスターのような微小な漏れ量を素早く完治したい用途は、以前は応答反応が速い差圧式が人気でしたが、最近ではMEMS型の熱式流量センサーを搭載したMFMが見直されたりしています。

こんな優れたMEMS型なのですが、前述のシリコン半導体製造ラインではあまり好かれていない状況で、これには理由があります。
直接流体と接触して測定するというMEMS型の特長が仇になる形なのです。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan


EZ-Japan(イージージャパン)Deco こと 黒田です。 2014年6月開業です。流体制御機器マスフローコントローラーを中心に”流体制御関連の万(よろず)屋”として情報発信しています。 日本工業出版「計測技術」誌で”マスフロー千夜一夜物語”の連載中です。
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