EZ-Japan BLOG since 2017 真・MFC千夜一夜物語

EZ-Japanブログは、真・MFC千夜一夜物語という流体制御機器=マスフローコントローラ(MFC)の解説記事をメインに、闘病復帰体験、猫達との生活が主なコンテンツです

FLUIDAT

真・MFC千夜一夜物語 第268話 コンバージョンファクターは1つではない その5


 もう一つのMFC千夜一夜物語が掲載されている日本工業出版さんの「計測技術」  20192月号(1/25発売)では、デジタルマスフローのフィールドバスと2018年にはついにフィールドバスとのシェアを逆転したと言われる産業用イーサーネットへの対応を解説しています。

 さて、本物語のラスボスの一つ“CFの信憑性”との戦いは続いています。

それではいってみましょう。

 CFへのセンサー方式による影響

 これはある意味当たり前と言ってしまえば終わりなのですが、ユーザーサイドでは知られていない事ですので取り上げます。
下図にあるインサーションタイプの全量測定型熱式センサーを搭載するマスフローと、巻線式分流測定方式のものとはCF値は共有されない。
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アルゴンFS600SLMMFMとして、巻線式分流測定方式F-113AC-1M0とインサーションタイプ全量測定方式のMASS-STREAM D-6370の比較を行ってみました。
ソフトが両者で異なりますので比較し辛いかもしれませんが、F-113AC-1M0CF1.422100%FSに対して、D-6370CF2.017100%FSなのです。
この2種類に関しては確かに熱式流量センサーを搭載しており、原理は同じ熱式流量計と考えてよいのですが、センサー構造が全く異なることから、別のマスフローであると考えなくてはなりません。
インサーション方式は、熱式流量計という名称で国内外各社から販売されており、現場で混在して使用しているユーザーが、マスフローとして一からげにして巻線式分流測定方式のCFで流量換算をされていたのを見かけたことがありますので、取り上げてみました。

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 “マスフローのラスボスの一つ”というのは大げさではとおっしゃる向きもありますが、かってはほとんどのマスフローメーカーが流体種とCFを一対一で表記=シングルCFで運用してきたことの信憑性にかかわってくる内容なのです。
今回の記事で分かってきたように、CF1つで管理するのはかなり乱暴なことであり、複数のCFが存在することは認めなくてはいけません。
現在、多くのマスフローメーカーはCF表の公開をやめ、マルチガス・マルチレンジ マスフローに移行しています。
要はシングルCFの限界をユーザーから指摘され、実ガス流量保証という名のマルチCFへの移行を行っているのです。

マスフローを使用する上で、校正ガスである窒素(空気)と実ガスの相関は、決して流量式だけで算出できるものではありません。
温度、圧力、流量レンジとマスフローの分流構造といった膨大なファクターを踏まえて、実ガス流量に近づける努力をマスフローメーカーは行っている。
だが、あまりにも膨大な作業量が目の前には広がっており、問題はその解を得たところで、それが商業的な成功と結びつくのか?という経営サイドからの問いに対してどうするか?なのです。
「メーカーは製品の根幹にかかわる技術の蓄積と整備を蔑ろにしては、成り立たない。」筈なのに、昨今の日本メーカーの品質上の不祥事続きは、「目先の利益につながるか?どうか?」を優先しすぎたしっぺ返しではないでしょうか?

マスフロー業界として、CFというものを一度総括し、この先のマルチCFとしての標準化をどう進めていくのか?という指針を出していかなくてはならないとDecoは考えます。
オランダという人口では日本よりはるかに少ない国で、ガス種、圧力条件、温度条件、モデル構造別にCFデータベース作り上げ、製品の製造工程で運用するだけでなく、その成果を社内資産でとどめず、FLUIDATのようなWEB上のアプリで全世界のユーザーへ発信するブロンコスト社の姿勢は、日本のマスフロー業界は大いに参考とすべきなのではないでしょうか?
 既報の半導体製造ガス流量ワーキンググループ(SGF-WG)発足”の動き等、日本のマスフロー業界でもこの戦いへの参戦が始まりました。
この試みに関しても、可能な限り本ブログでご報告していきたいと思っています。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

新年のご挨拶&真・MFC千夜一夜物語 第267話 コンバージョンファクターは1つではない その4


2019年 亥年 新年あけましておめでとうございます。
皆様、いかがお過ごしでしょうか?

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本年もマスフローコントローラ(MFC)&マスフローメーター(MFM)に関する記事を定期的にアップしていきたいと思っております。
どうぞ当ブログを宜しくお願いいたします。


2019
年一回目の更新は、真・MFC千夜一夜物語 で、ラスボスCFとの戦いの第4回目をお届けします。

 

CFへの流量レンジ影響

 第4回目ではマスフロー(MFC&MFMの総称)の流量レンジを変えることでのCFへの影響を確認してみましょう。

ブロンコスト社(Bronkhorst High-Tech B.V.で、流体をアルゴンガスの 大流量MFMモデルでF-113AC-1M0を選定して、このモデルの流量下限フルスケールのFS600SLMと、上限のFS2500SLMを選んでみました。
それぞれ空気換算すると400SLM1670SLMです。
ブロンコスト社で大流量モデルはコンプレッサーエアーが基準流体になります。
この流量レンジで純度の高い窒素ガスを校正用にドバドバとはは使いたくないですよね。
両レンジでCFが大きく変化しているのが下図でわかります。

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600SLMでのCF1.422100FS、ところが2500SLMでは1.562100FSです。
興味深いのは、FS2500SLMモデルの 250SLM10FSでのCF1.404であることです。600SLMモデルの同じ流量ポイントとなる250SLM41.7FSで計算するとやはり1.404なのです。
CF
の変化はアルゴンの流量レンジが大きくなるにつれ、1.4221.568と大きな値に変化していきます。

今度は流体を変えて水素で見てみましょう。(下図)
ここでまた不思議な現象が確認されます。

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水素ではアルゴンと逆の現象が起きるのです。
モデルの最小レンジであるFS400SLMでのCF0.9766100FS、これが最大レンジであるFS1400SLMでは、なんと0.8735100FSとなっています。
アルゴンとは逆に流量レンジが大きくなるにつれ、CF0.97660.8735と小さくなってしまうのです。

実はDecoはこのマルチCFの罠にしっかり嵌って、失敗をしたことがあります。
なまじっか経験が長い為に、“空気と水素のCFは、ほぼ近似していて1である。”というシングルCF時の知識で、「空気換算1670SLMF-113AC-1M0が作れるのだから水素も同じはず・・・」とFLUIDATで確認せずに顧客仕様を決めてしまったことがありました。
蓋を開けたら0.8735倍の1459SLMしか流れないわけで、平謝りして納入前に流量レンジをFS1400SLMに下げてもらったのです。
まさに“生兵法は怪我の元”ですね?お恥ずかしい限りです。

 

今回の比較で興味深いのは、アルゴンも水素も25FS程度の低流量域から100%FSまで大きくCFが曲がっていることです。
これは巻線式センサーで分流構造をとるマスフローにはつきまとう“分流比”の変動が要因と考えられます。
一般的な巻線型のマスフローで採用されている熱式センサーは、測定対象である流体を全量測っているわけではありません。
流量センサーに流れるのは510ml/min程度の流量であり、残りはすべて層流素子(バイパス)部を流れるように設計されています。
これはセンサー管内の流れを層流で維持する為であることは、今までの連載で何度か解説しましたね?

ここで問題になるのは、このセンサー管と層流素子の分流比率です。
その分流比率は、どんな場合でも一定にはならないのです。
高圧から真空(subatmosphericレベル)までの圧力条件、微小流量から大流量までの流量レンジで一定の分流比の維持は難しいのです。
また、ガス種により、アルゴン、二酸化炭素のような重いガス、水素のような軽いガスでは、自ずと校正に使用する基準ガスである窒素や空気とは異なってきてしまうのですね。

 

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan


EZ-Japan(イージージャパン)Deco こと 黒田です。 2014年6月開業です。流体制御機器マスフローコントローラーを中心に”流体制御関連の万(よろず)屋”として情報発信しています。 日本工業出版「計測技術」誌で”マスフロー千夜一夜物語”の連載中です。
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