もう一つのMFC千夜一夜物語が掲載されている日本工業出版さんの「計測技術」誌 2019年3月号(2/25発売)では、マスフローコントローラ(MFC)の流量制御バルブのアクチュエーターとしてソレノイドを搭載したMFCの使用上の留意点を解説しています。

アルゴン(Ar)
アルゴンは不活性ガスの代名詞のようなガスですね?。
アルゴンのネーミング由来が、ギリシャ語でelgon「働く」という言葉に否定語のanを付け「働かない:=不活性な」という造語であることからもうかがえます。
実はニートなガスだったんですね、アルゴンは。
アルゴンはヘリウム、ネオン、クリプトン等と同じ希ガスですが、液体空気からの分留で容易に得られるため、比較的入手しやすいガスで、半導体製造工程ではスパッタ装置を始め各種工程で使用されていますし、分析装置では試料のキャリアガスとして、そしてアルゴン溶接では溶接中の酸化を抑える保護ガスとして各業界で幅広く活躍しているガスなのです。


baacf3f1.jpg

【出典:ブロンコスト・ジャパン(株)】

マスフローコントローラ(MFC)にとって、アルゴンは窒素と並んで制御しやすいガスなのですが、少々厄介なところがあることはあまり知られていません。
実はアルゴンとヘリウムのコンバージョンファクタ(CF)は近似していて、だいたい1.4近辺です。
では、この2種のガスを切り替えて一つのMFCで流量制御できるか?というと大間違いなのです。
それはバルブ側に原因があります。
流体としてのヘリウムとアルゴンは、バルブ部のオリフィスを通過しやすさで比較すると、必ずしも同じではないのです。
190318_01


ここで重要になるのは、密度です。
窒素の密度が1.25kg/m3に対して、ヘリウムは0.1785 kg/m3しかありません。
それに対してアルゴンの密度は1.784 kg/m3もあるのです。(いずれも0℃,1013hPa条件) 
バルブでよく使われる容量係数であるKv値の式に当てはめて、あるバルブオリフィスを選定した場合に、同じ圧力・温度条件でヘリウムとアルゴン、2つのガスを流した時に流れる流量比を計算すると、ヘリウムの方が3倍以上多く流れる結果が出てしまいます。
(MFCの場合、このKv値、もしくはCv値でバルブオリフィスの全開流量を算出しても、全開流量がそのまま流量制御フルスケール流量ではないのですが、目安にはなります。)
つまり同じバルブ設定ではこの2つのガスは流量差が大きすぎて、同じように制御できない可能性が高いということです。
ヘリウム用のMFCでアルゴンを制御した場合、低設定流量の制御は問題ないが、設定を高くしていくとどこかのポイントで流量制御が頭打ちして流れなくなってしまい、SV値(流量設定値)>PV値(流量出力値)という現象が発生してしまいます。
応急処置としては、アルゴンの供給圧力を上げることで、なんとか流すことができることもありますが・・・
やはりCFが似通っているからという理由だけで、他のガスを流すのは様々なリスクがあると考えて下さい。
アルゴンのような重いガスとヘリウムのような軽いガスは、そもそも流量制御バルブの選定が異なって当然という認識を持ってくださいね。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan