ブロンコスト(Bronkhorst High-Tech B.V.)のMFC MASS-STREAM D-6471は、先ほどの二次圧0.2MPaの条件に対して、なんと一次圧は0.2386MPaで500L/min[N]のアンモニア流量制御ができる低圧損大流量MFCです。
整流の為のフィルターは入ってはいますが、比較すれば圧倒的に少ない抵抗で流体を流すことができます。
EZ-Japanブログは、真・MFC千夜一夜物語という流体制御機器=マスフローコントローラ(MFC)の解説記事をメインに、闘病復帰体験、猫達との生活が主なコンテンツです
もう一つのMFC千夜一夜物語が掲載されている日本工業出版さんの「計測技術」誌 2019年4月号(3/25発売)ではマスフローコントローラ(MFC)、マスフローメータに異物が混入した際のトラブルシュートを解説しています。
Bronkhorst High-Tech B.V.(以下ブロンコスト)の MASS-STREAM D-6371は、圧力損失はわずか38.6kPa(d)で500L/min[N]のアンモニア流量制御ができる低圧損大流量MFCです。
なぜこのような低圧損で大流量制御が可能なのでしょうか?
それは流量センサー構造の差です。
従来のマスフローの多くが図の上にあるような分流構造をとっています。
この方式では流れる流体の一部(数mL/min程度)を0.3~0.8mmφ程度のセンサー管側に流して熱移動を測定し、残りほとんどを分流素子(バイパス)に流しています。
その為、センサーと層流素子の分岐部分に抵抗=圧力損失を設けてやってセンサー管へ流体が常に流れる構造にしなくてはいけません。
また層流素子自体の抵抗もセンサー管と同径の細管の集合体であったり、エッチングで凸凹を付けた板を丸めたものであったり、焼結フィルターを使っているものもある為、流量が大きくなるにつれこの構造部のボリュームも大きくなり、圧力損失が大きくなるのはやむを得なかったのです。
ところがMASS-STREAMのセンサーは、スルーフロー構造という直接流体を測定するインサーションセンサータイプで、分流構造のない全量測定方式です。
整流の為のフィルターは入っていますが、比較すれば圧倒的に少ない抵抗で流体を流すことができます。
ガスに直接触れるヒーターと熱センサーはSUSU316のシースで保護されているのでアンモニアどころか塩化水素(もちろんドライガス状態のみ)の使用にも耐えるのです。
また、MFCの構成物で最も大きな圧損を産むバルブ部分に関しても、5000L/minクラスのKv値を持つMFC一体型バルブが準備されていますし、それ以上の大流量、低圧損要求にはKv値を最大6まで選べる別体型モーターバルブも用意できるのがこのマスフローの強みです。
モーターバルブはソレノイド式よりも応答性では、劣りますが、構造上圧力損失を非常に小さくできる利点があります。
MFC&MFMの最大のトラブルは、センサーチューブとバイパス(層流素子)の分流比が何らかの原因で初期値より変化することという説明から、「じゃあ、どういうマスフローを選べばいいの?分流構造のないマスフローなんてあるの?」というお問い合わせに、現時点でDecoがお勧めしているのは、インサーションタイプの流量センサー、バイパスレスで全量流量測定をのMASS-STREAMシリーズです。
まずは下の動画を見て下さい。
【 Bronkhorst High-Tech B.V. MASS-STREAM youtubeより 】
MASS-STREAMシリーズは、前回説明した定温度型熱線式流速計を応用した"Through-flow
Measurement"
スルーフロー構造の流量センサーを 搭載しています。
流量レンジを0.01-0.2 l/min[n]から10-5000 L/min[n] (Air換算、[n]=normal:0℃、1013hPa校正)まで非常に広い範囲の流量レンジをラインナップしています。
MFM/MFCを選べるだけでなく、大流量&低圧力損失制御用にMFMと別個体の流量制御バルブとの組み合わせも選択可能です。
マスフロー本体には表示・設定機能を搭載したモデルをオプション選択でき、流量設定や流量モニター、積算、アラーム表示等の多彩な機能をマスフロー単独で表示・設定できます。
また、IP65防水防塵規格に対応しているので、大流量用マスフローの現場流量指示としも活用可能です。
大流量となれば配管径も大きくなり、自然と制御パネルとの距離も離れてしまうので、瞬時流量を確認するのにマスフローと制御盤の間を行き来する苦痛からも解放されますね。
メインボードにはBronkhorst
High-Tech B.V.の最新のデジタル制御技術を搭載することで、細やかな温度、直線性補正、高速流量制御が可能になっています。
流量出力、設定信号はアナログ0-5VDC、0-10VDC、4-20mA、0-20mAから選択、デジタルは標準のRS232に加えて、オプションとしてProfibus-DP, DeviceNet, Flow-Bus, ModBus-RTU 等の通信プロトコルにも対応しています。
MASS-STREAMシリーズのセンサー構造で興味深いのは、ヒーターと温度センサーがすべてSUS316のシースで覆われているところです。
ボディはアルミ(AL 50ST/51ST)とSUS316から用途に応じて選択可能で、その他の接ガス部もSUS316以外はテフロンとOリングのエラストマー材(バイトン、カルレッツ、EPDMからの選択式)なのです。
この構成なら腐食性ガスにも対応できます。
センサー部の腐食を考慮しなくてよい為か、データシートにはNH3やHClといったガス種への対応が可能で、インサーションタイプは圧縮空気用のみ、それもドライヤーで水分を除去するのが前提であった20年前とは違うのだということをDecoも認識しました。
では、肝心の流量計としての性能はどうでしょう?
まずはメーカーから個体毎に流量校正証明書が添付されている。
「そんなの当たり前でしょ!」と言われそうだが、今の世の中は校正証明書や検査成績書も付かない流量センサーが当たり前のように販売されているのです。
校正証明書のリニア10ポイントの測定結果は、デジタル多点補正により、Decoの懸念したリニアリティの悪さは全く見られませんでした。
これこそがデジタル技術の最も大きな恩恵なのです。
そこで、少し意地の悪い実験を依頼することにした。
分流構造のマスフローが苦手とする大気からの吸引での若干負圧(70-90kPa(A))条件での流量データを取ってもらったのだ。
ここでも驚くべき結果が出ました。(下図)
最大値20L/min[n]から5%刻みでデータを取った全てのデータが繰り返し性をもって±1.25%R.D.以内に収束します。
データシートのリニアリティ込みの精度±2%F.S.はかなり遠慮して書かれているようですね。
【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan