EZ-Japan BLOG since 2017 真・MFC千夜一夜物語

EZ-Japanブログは、真・MFC千夜一夜物語という流体制御機器=マスフローコントローラ(MFC)の解説記事をメインに、闘病復帰体験、猫達との生活が主なコンテンツです

MEMS

真・MFC千夜一夜物語 第421話 MFCの応答性能 その3

2024年、あけましておめでとうございます。
本年も本BLOGを宜しくお願いいたします。
年明けから令和6年能登半島地震、そして羽田の航空機事故と続きました。
犠牲になられた方々、そのご家族にお悔やみ申しげますとともに、
被災された方々が一日でも早く元の生活に戻れるよう祈っております。
わずかな金額ですが、EZ-Japanからも被災地への寄付をさせて頂きました。


さて、2024年もMFC千夜一夜物語を始めさせていただきます。
章を改めて巻線型熱式流量センサーを搭載したマスフローメーター(MFM)の応答がマスフローコントローラー(MFC)のそれよりも決して早くはない理由のお話です。
流体に直接接触するMEMS型は感度が良く応答が速いというお話をしました。では、なぜ、MFCのメイン市場である半導体製造装置ではあまり用いられないのでしょうか?

それは“直接流体に接触する”というMEMS型の利点が、半導体製造プロセスで使用されるガスでは仇になってしまう事があるからなのです。
MEMS型の代表的な構造を見てみましょう。
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上図にあるようにMEMS型の場合、流量センサーを構成するマイクロヒーターとその上流下流の測温センサーが流体に直接接触しています。
これが巻線型のような非接触、SUSチューブを介して熱の受け渡しをしているタイプよりも敏感なセンサーを作れる要因なのですが、半導体製造工程では塩素のような腐食性ガスを使用することもあるのでセンサーの劣化が懸念されます。
更にMEMSの場合、ボディ側への熱の逃げを避けるために、シリコンダイヤフラム上にMEMS技術で形成している事もあるので、このダイヤフラムの腐食、もしくは逆に反応による異物堆積によるもんだいもあります。
また、半導体プロセスでは危険なホスフィンのような毒ガスや、シラン系の可燃性ガスも存在しますので、ダイヤフラムの下にある空間にそれらが入り込んでなかなか抜けない=つまり置換効率が悪し構造になることも好まれません。(毒ガスに限らず、ガスの置換効率は重要視されます。)

こういったMEMSの構造上と特徴から、半導体プロセスでは避けられてしまったという歴史がありました。
Decoとしては、前述の深堀りRIE=ボッシュ工法の微小流量酸素ラインの制御にMEMS型を使用している海外の装置メーカーは存在しているのも知っていますので、「シリコン半導体用のエッチャーで酸素の微小流量&高速流量制御が必要なラインだけでも使えたら面白いのになぁ。」と考えていました。
半導体製造装置設計に携わる方々からすると、何を言ってるんだ!とお𠮟りを受けそうですが、MFC屋の立場だとMEMSのMFCは巻線型ではどうしても対応できない高速応答という分野で、素晴らしい結果を出してくれているのは確かなので・・・

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

真・MFC千夜一夜物語 第420話 MFCの応答性能 その2

巻線型熱式流量センサーを搭載したマスフローメーター(MFM)の応答がマスフローコントローラー(MFC)のそれよりも決して早くはない理由のお話です。
まずはおさらいで、熱移動を流量検出原理とする熱式流量計もセンサーが関節接触型の巻線型か?直接接触型のMEMS型か?で感度が異なるお話をしました。
 
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上図にありあますように、熱の移動でセンサーの抵抗値のバランスが傾いた差分をブリッジ回路で取り出すのが、熱式流量計の基本的な構成です。
その差分で得られる信号は相当微弱なものですので、それを後段で増幅したり、直線性を補正したりすることで0-5VDCといってリニアな流量信号へ加工している訳です。

微弱な信号であるが故に、それでも相対的に感度が良いというのはセンサーにとっては良いことづくめなのです。
まず利得が大きいので、SN比がより良い信号を得られます。
SN比は音響関係でよく使われる言葉ですが、シグナルノイズ比(Signal-to-Noise Ratio)の事です。
有効な信号成分(シグナル)と雑音(ノイズ)成分との量の比率のことですね。
シグナル中に含まれるノイズ量の比率を表し、この値が大きいほど信号の品質や機材の性能がよいことになります。

では、MFCの流量信号でノイズとは何でしょうか?
実は皆さんよくご存じのゼロドリフトのことです。
SN比がよい信号は、ゼロドリフトが相対的に少ない事になります。
巻線型センサーから取り出される信号はかなり微弱なので、その分後段での増幅を大きくしないといけません。
困ったことに、そうすることで自ずとノイズも増幅されてしまうのです。
つまりゼロドリフトの量も大きくなってしまうのですね。
ゼロの長期安定性の悪化はMFMやMFCの精度性能の維持に大きな悪影響を与えてしまうのです。

MEMS型の最も美味しいのは、直接流体に触れている事で、応答性が格段に速い事です。
これは巻線型では追いつけない領域です。
前回お話ししたお湯を素手で触るのと厚手のゴム手袋を着けて触るという例え話を思い出して頂ければ、納得いただけると思います。
この応答性の速さを評価して、深堀りRIE(Reactive Ion Etching)=ボッシュ工法の微小流量酸素ラインの制御にMEMS型を使用している装置もあるくらいです。(残念ながら最先端シリコン半導体用のエッチャーではありませんが・・・)
また、エアリークテスターのような微小な漏れ量を素早く完治したい用途は、以前は応答反応が速い差圧式が人気でしたが、最近ではMEMS型の熱式流量センサーを搭載したMFMが見直されたりしています。

こんな優れたMEMS型なのですが、前述のシリコン半導体製造ラインではあまり好かれていない状況で、これには理由があります。
直接流体と接触して測定するというMEMS型の特長が仇になる形なのです。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan


真・MFC千夜一夜物語 第387話 流量制御バルブとアクチュエーター その7

マスフローコントローラー(以下MFC) の流量制御を司る流量制御バルブとそのアクチュエーターに関して再び解説していきましょう。
これからのMFCの流量制御バルブに今後求められるのは、高速応答と大差圧制御です。
高速化の需要は半導体製造装置で根強く、大差圧制御は高圧でガスをハンドリングするような一般工業分野で多いのです。

その内、高速化に関しては今までも都度解説してきましたが、MFCという流量制御システムとしてのパッケージで考えなくてはいけません。
極論するならば、MFCで流量センサーからの信号を設定信号と比較制御させて、更なる高速応答をさせるのは、すでに限界に来ているのです。
アクチュエーターをどれだけ速くしても、今のフォーマットでは画期的な高速化には至らない事は見えています。

故に一つの方法としては、流量センサーを高速化する事なのです。
MEMSタイプの直接流体に接触して熱の移動を測定する流量センサーを採用する、もしくは熱式以外の流量センサー、コリオリ式や圧力式を採用する事です。
実際一部の深掘りRIE装置等では熱式MEMSセンサータイプのMFCを酸素流量制御ラインで使用して成功している事例があります。
だが、半導体製造装置で使用するガスには、接触式のMEMSタイプセンサーを嫌う腐食性の強い材料があります。
具体的には下図で示すようなトラブルが懸念されます。
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現行の巻線タイプが長く使われている理由が、センサー部チューブ外周に設置される巻線が流体に非接触な事が評価されているからで、ガス種によってはMEMSセンサーへの置換が難しいと判断されています。

それ故にDecoはMFCのフィードバック制御を装置側から介入して停止させて、装置からダイレクトにMFCの流量制御バルブ開度を制御する事が可能なMFCを提案しています。
高速応答が必要な場合は、MFCの流量センサーは流量モニターに徹して、流量制御バルブを装置側で直接操作する。
逆に流量が安定してきたら、少々環境条件が変化しても自動追従するようにMFC側に流量制御のイニシアチブを渡す。
これは産業用イーサーネットが普及し、EtherCATのような高速ネットワークが構築できるようになった今だからこそ実現できる装置との親和性の高いMFCの新世代だとDecoは考えているのでした。

もう一つの課題が大差圧制御は次回お話ししましょう。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan


真・MFC千夜一夜物語 第327話 MFCの応答性 その3

前回はマスフローコントローラー(MFCの応答性に関して、流量制御バルブの構成部品であるアクチュエーターが、ピエゾが?それともソレノイドか?は、MFCとしての応答性能を決める決定的な要素ではない事をお話ししました。

今回はセンサーを見てみましょう。

 

センサーで代表的なのは、皆さんも良く御存知の巻線型です。

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巻線式分流構造流量センサーの一般例 出典:EZ-Japan

 

これに対して最近増えているのがチップ(MEMS)型です。

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MEMS式流量センサーの一般例 出典:EZ-Japan

 

そして、古くからある熱線式風速計をルーツに持つインサーション方式になります。

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インサーション式流量センサーの一般例 出典:EZ-Japan

 

あくまで一般論で言わせて頂ければ、これらのセンサーの中で、応答性能で最も不利なのは、巻線型です。

なぜならば他の2種類のセンサーは、測定対象である流体に直接触れる事で流体の温度を測定しているのに対して、巻線型は細径のSUSチューブの外周にニクロム線を巻き付けている為に、直接流体には接触せず、SUSチューブを介して熱のやり取りを行っている分、不利だからです。

もちろんそれ故に腐食性流体に強く、半導体製造プロセスのような特殊ガスを使用することで成り立っている装置産業には無くてはならないものなのですが、流体への接触が可能な流体(例えば空気や窒素)に限っては、巻線型は応答性能では最初からディスアドバンテージを背負っていると言えるのです。

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MFCの応答性 出典:EZ-Japan

前回から使っているMFCの応答性能を構成するチャートで示すと、「熱の移動量を流量へ換算して流量信号として取り出す」という部分の流量センサーが担当する仕事が速ければ速いほど、MFCとしての応答性能は向上する事になります。

今までこの部位が巻線型のMFCを使っていたユーザーが、アクチュエーターはソレノイドのままで、センサーをMEMSモデルのMFCに変えてみた場合、非常に良好な応答制御性が得られて驚かれるパターンを何度もDecoは見てきています。

もし可能なら、試してみられると良いかと思いますよ。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

【新製品紹介】MEMSセンサータイプのコリオリ式マスフロー BL100シリーズ

久しぶりのEZ-Japan Decoのここでもうひと押し コーナーです!

 

ブロンコストは、従来のmini CORI-FLOWシリーズで、コリオリ式としては異例の微小流量化へ開発の舵を取ってきました。

 

これは大流量、プラント用がメインと思われてきたコリオリ式流量計の世界では、異端な出来事で、現時点で追従者はなかなかいない状況です。

従来のシリーズでの最小流量はM12ML120シリーズのフルスケール5g/hMFMで最小測定流量は0.05g/hMFCでの最小制御流量が0.1g/hでした。

これはコリオリ流量センサーをステンレスの細管で構成する上での最小流量と言ってよいです。

なぜならばこのレンジで使用するコリオリ式流量センサーの内径は既に0.25mmであり、これ以上のSUSの細管を独自の形状に曲げ加工してコリオリセンサーとして使用するのは不可能だと思えるからです。

 

miini CORI-FLOWのコリオリ式流量センサーの概略図を参照して下さい。

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<出展:youtube Bronkhorst チャンネル”mini CORI-FLOW Coriolis Mass Flow Meter, principle of operation”>


コリオリ式流量センサーの流量式を下図で示します。

既に本ブログでお馴染みの図ですね。

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回転系に発生する慣性力をコリオリ力として取り出す為に、振動系を構築すると、ある周波数で振動するU字配管に流体が侵入すると、その進路の垂直方向へコリオリ力が産まれます。

これには流体がある程度以上の密度が無い場合、流れによって生じるチューブの捻じれ振動数が、強制振動数に対してインパクトを生じないという弱点があります。

その為、微小流量の流体測定には、センサーチューブ自体の径を細くしていく必要があるのです。

ですが、前述の通りステンレス細管では既に限界と思えるサイズ要求であり、更なる微小流量用センサーを開発する上で大きな問題となっていました。

 

ブロンコスト社では、ここでMEMS技術を採用します。

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<出展:ブロンコスト・ジャパン(株)>

 
今までもMEMS技術で作られた流量センサーは数多くありました。

特に熱式ではMEMSセンサーが一つのムーブメントになったくらいです。

それに対してコリオリ式は、以前紹介したISSS社のものが先駆け的な存在ではあったものの、Decoの知る範囲では、今のところあまり存在していません。

  

今回、開発されたMEMSコリオリ式流量センサーは、BL100シリーズという新モデルに搭載されました。

 

新型MEMSセンサー搭載コリオリ式マスフローは更なる微小流量領域に踏み込み、マスフローメータで0.012 g/hのガスおよび液体の測定・制御を達成したとのことです。

これはどこの追従も許さないコリオリ式流量計としての最小流量記録をブロンコスト自身が塗り替えたことになり、すごいことだとDecoは考えています。

 

20191月末に催された国際ナノテクノロジー総合展、オランダ・ハイテク・パビリオンブースのブロンコストコーナーで日本初お目見えを果たしたBL100のデモ機を見せてもらいましたが、サイズ的には一般的なMFCのサイズなのですが、手に取った際のずっしりした重量感がすごく印象的でした。

今まで数多くのマスフローを手に取った経験があるDecoが、その重さに驚いたくらいなのです。

どうやらMEMS化したことで小型軽量化したコリオリセンサーへの外乱=振動影響を防ぐ為の工夫らしく、かなりの重量構造のフレームを採用しているようですね。

構造に関しては、情報が公開され次第、本ブログや計測技術誌の連載で取り上げたいと思っています。

 

 

現在、ブロンコスト・ジャパン()では、評価用デモ機を準備する用意があるとの事です。


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ただし、国産メーカーさんでよくあるような、「評価という名目でマスフローを1台、お客さんに置いていきますよ」ようなものではなく、お客様と守秘契約を結んだ上で最大6か月の評価貸出を行って頂き、その評価結果の開示が貸し出し条件になるとのことです。

 

興味を持たれた方は、Decoまでご連絡を!

早く実物の稼働風景を見たいものですね!

 

 

EZ-Japan ここでもうひと押し by Deco


EZ-Japan(イージージャパン)Deco こと 黒田です。 2014年6月開業です。流体制御機器マスフローコントローラーを中心に”流体制御関連の万(よろず)屋”として情報発信しています。 日本工業出版「計測技術」誌で”マスフロー千夜一夜物語”の連載中です。
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