もう一つのMFC千夜一夜物語が掲載されている日本工業出版さんの「計測技術」誌 20194月号(3/25発売)ではマスフローコントローラ(MFC)、マスフローメータに異物が混入した際のトラブルシュートを解説しています。

 

 

<モノシランが引き起こした事故事例>


特殊高圧ガス恐ろしさの代表例としてモノシランを取り上げましょう。
Deco
がマスフローの営業でデビューしたころに安全教育で必ず取り上げられたガスがモノシランでした。
シラン系ガスは半導体、太陽電池、光ファイバーなどの製造プロセスでよく用いられていますが、前回ご説明したとおり、常温で大気に放出され空気に触れると発火する危険性を持っています。
よく勘違いされますが、モノシランを窒素などで希釈して濃度1%未満の混合ガスとして使用しても、その特性は同じです。
「希釈してあるから安全」とは考えない方がいいガスです。
また、リーク箇所から早い流速で漏れ出したモノシランはいきなり燃えずに空気に混合し、その後に激しい爆発を起こすこともある厄介な性質を示します。

 

モノシランの悪名を知らしめたのは、1991年に発生した大阪大学での爆発事故でしょう。
プラズマCVD装置で実験中にモノシランの容器が突然爆発し、飛散した容器の破片で死者2名、軽傷者5名の人的被害と、都市ガスおよび有機溶剤に引火し火災が発生したことで4教室(300m2)を焼失してしまいました。
当時モノシランの外部リークによる発火の危険性は既に国内で事故事例がありましたので、事故が起きた研究室でも容器をシリンダーキャビネットに入れ、その内部を常時排気して除害装置に導かれるようにしていました。事故原因は同じシルンダーキャビネット内にあった亜酸化窒素とモノシランの混合でした。下図で問題の生じたフローを示します。
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(
今回の説明に必要な部分だけ摘出して図示したものなので、事故が生じた配管系のすべてを網羅したフロー図ではありません。)


モノシランと亜酸化窒素は装置への供給系では交わらないように設計されていましたが、両ガスの窒素パージラインだけは配管を共有しており、逆止弁とボール弁で亜酸化窒素がパージラインには流れ込まないように設計されていました。
亜酸化窒素側の逆止弁の内部構造部品であるOリングが何らかの原因で破損した為に逆止弁が本来の機能を果たしてなかったのではないかと推測されています。

亜酸化窒素が窒素パージラインを通じてモノシラン容器直近に到達して混合し、バルブ操作で生じた断熱圧縮、もしくは静電気で着火し、炎がモノシラン容器に到達し爆発したのではないかというのが調査の結論でした。
逆止弁のメンテナンスは当然必要ですが、根本的に反応することで危険な状況を作り出すガスがパージラインといっても同じ配管でつながれていたことが根本問原因であり、この事件を省みて、以降は法令で禁止されるようになったのです。

 

この事件を通じてモノシランの危険性が認識されるようになり、半導体の層間絶縁膜CVD用途でもモノシランの代替も進みましたが、やはりこのガスの需要は多くあります。

十分な知識がないままに機器選定や配管施工、そして設備導入や運用を行うのは大変危険です。

優秀で前途のある学生さんが命を落としたというこの悲惨な事件の記憶は、風化させてしまってはいけません。
ガス系の仕事に携わるものとして、常に自身とお客様、協力会社さんが危険と向き合っているという認識を忘れないようにしたいとDecoは常に思っています。
 

 【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan