EZ-Japan BLOG since 2017 真・MFC千夜一夜物語

EZ-Japanブログは、真・MFC千夜一夜物語という流体制御機器=マスフローコントローラ(MFC)の解説記事をメインに、闘病復帰体験、猫達との生活が主なコンテンツです

真・MFC千夜一夜物語 第448話 質量流量計のトラブルシューティング その5

マスフローコントローラー(以下MFC)を含む質量流量計の基礎に立ち戻って、その原理から生じるトラブルシューティングに関して解説していきましょう。

Decoの経験上、熱式流量センサーを搭載したMFCで一番多いトラブルはゼロのずれ=ゼロドリフトです。
継続的にゼロがズレる現象が生じた場合、制御流量に対する影響はそのズレ分がそのまま乗りますので困ったものなのです。
対処方法としては、古いアナログMFCの場合はゼロ調整用のボリュームをドライバーで調整するという者でした。
現行のデジタルMFCではゼロリセットスイッチや通信によるゼロリセットコマンド入力で都度ゼロバランスを再調整する方法があって便利になっています。
でも、センサー巻線の抵抗は継続的に劣化している場合、つまりマスフローの寿命が近い場合、「ゼロ調整しても、しばらく時間が経過するとまたずれる」といった困った状況が起きます。
こういった現象が確認された場合、応急処置は都度ゼロ再調整で構わないのですが、早期にメーカーに修理に出すことをお薦めします。
そうすれば流量センサーは新品に交換され、リフレッシュされて戻ってきてくれます。
機械に永遠の寿命はありません。
不安要素を抱えたまま運用するより、早期のメンテナンスこそが、大きなトラブルを回避する一番の策なのです。

巻線の抵抗値バランスが経時変化で崩れる事に対する対応は、MEMS型流量センサーという形で提示されました。
だが、MEMS型は直接流体に接触する事がネックになり、腐食性ガスなどへの対応が難しく、ガスを選びました。
しかし、ここにきてブロンコストから新しいセンサーが提示されたのです。
FLEXI-FLOW Compactに採用されたTCS(Trough Chip Sensor)Technology バイパスフローセンサーという技術です。
従来の巻線型とMEMS型を融合して、巻線型センサーの器差の原因であったニクロム線を細管の外周に巻きつけた流量センサーから脱却しつつ、従来培ってきた分流(バイパス)構造でのノウハウを活かし、広いレンジで高い精度、繰り返し性を維持できるのがTCS Technology バイパスフローセンサーです。
詳しくは以下の動画‘38秒くらいからをご覧ください。



基本的に、このセンサーは2つの真っ直ぐな窒化ケイ素キャピラリーで構成され、それぞれの直径は100μm、壁の厚さは1μmです。
上部の温度依存の金属抵抗器は、ヒーターおよび温度センサーとして機能しています。
流路にただMEMSセンサーを置くのではなく、今まで培ってきた巻線型センサーのセンサー部をまさにMEMSで再現する事で、今まで培ってきた分流(バイパス)技術を利用した多彩な流量・圧力レンジへの拡張性を待たせた温故知新のセンサー技術なのです。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

この杖を使っていたのは・・・

今回は少し箸休めとしてDecoの徒然日記です。
この杖を使っていたのは12年前でした。

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2012年9月26日の早朝、目が覚めた際に左手足が動かないことに気がつきました。
これが脳梗塞の一歩手前、一過性脳虚血症と診断され、更に血栓は無くなっているのに左の手足が思うように動かない状況が続くことになりました。
仕事も無くなり、まだ大学に行っている娘がいるのに年末で無職という事態に陥り、人生のどん底に陥った時期の相棒です。

この時、医師に「他の患者さんと比べたら重篤な状態ではないから」の一言にキレた(奮起した)Decoは我流のリハビリを続けました。
成果が出なくても悲観しないこと、決して諦めず毎日続けること、これを頭に置いて、動かない脚をルームバイクのペダルに固定して動く方の脚で漕いだり、左手でゴムチューブを引っ張ったり、ゴムボールを握ったり・・・

幸運なことに1年3か月後にほぼ機能を取り戻すことができました。
これはDecoがたまたまうまくいったのかもしれませんが、リハビリのアドバイスをくれた別の先生が「動かない箇所に”動かないといけないんだ”というメッセージを伝え続ける事が大事。」と言われたことが、その通りだったなと。

3年前の心不全の時のリハビリは、この経験があったので、決して辛くなかったです。
身体が元に戻ったから言えることなのですが、良い経験をしたものだと・・・
やはり「諦めたらそこでゲームセット」なんですね。

EZ-Japan ”Deco” こと 黒田 誠


真・MFC千夜一夜物語 第447話 質量流量計のトラブルシューティング その4


マスフローコントローラー(以下MFC)を含む質量流量計の基礎に立ち戻って、その原理から生じるトラブルシューティングに関して解説していきましょう。

まずは熱式流量計の不具合対策からです。
熱式流量計の取扱いによるトラブルは非常に多いです。
Decoは現役時代を含めトラブルシュートに駆り出されることが多く、その現場から学んだことがたくさんあります。
経験上一番多いトラブルはゼロのずれ=ゼロドリフトです。
この原因はこのブログでも解説済みですが複数あります。
センサーの巻線部の抵抗値の経時変化、センサー管内の熱対流、MFCの流量制御バルブの内部リーク(出流れ)、調整ミス、設置環境(温度)、外部要因となります。

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この中で一番多いのは流量センサーの巻線(ニクロム線)の抵抗値の経時変化です。
図にあるように熱式流量センサーは、ヒーター温度=巻線抵抗値のバランスが傾いた量を流量として検出しています。
巻線型流量センサーは、上流/下流の対になった巻線が、ヒーターと測温抵抗体の役割を果たしており、流量信号を取り出すためのブリッジ回路を形成しています。
これを二線式と呼び、ヒーターと測温抵抗体の役割を分離して、上流測温抵抗体、ヒーター、下流測温抵抗体の3つで構成される三線式もあります。
また、多くのチップセンサー型はこの三線式をMEMS技術で微小サイズに再現したものです。
この対になる測温抵抗体の測定する温度の平衡状態が、流量=0のポイントです。
ここに流体が流れ込んでくると、上流側の熱を奪って、下流側に運んでいくことになり、バランスが変化します。
この時の上流下流での温度変化量が流量に比例する・・・というのが、マスフローに代表される熱式流量計の基本原理でしたね?

流体の移動が無い状態、つまり流量がゼロの位置にあるにもかかわらず、当初の抵抗値のバランスが崩れて、あたかも流量が流れたり、マイナスの表示をしているように見えるのが熱式流量計のゼロずれ問題です。
このずれ量はそのまま測定流量に誤差として乗るので注意しなくてはいけません。
この現象は、多くはマスフローセンサーの寿命が尽きた場合に発生します。
通電状態では常に100℃近い温度を発熱している巻線を何年も使用していると、当然経年変化が生じるのです。

抵抗値が上がり続け断線による機能喪失が起きる場合もあります。
これがマスフローの寿命です。
これはメーカーによるセンサー方式の差や、巻線の個体差もあり、一概に何年とは定義しにくいのです。
昔だと1~2年、最近の製品はメーカーの努力でかなり安定が良くなってきているので、5~8年は断線せずに使えてしまう場合もあります。
だが、断線に至らずとも、抵抗値変化が上流下流の巻線双方に同じタイミング、かつ同じ量だけ発生するような幸運は、まずありえないので、初期の抵抗値バランスはいずれ崩れ、ゼロのずれが発生することになります。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan


真・MFC千夜一夜物語 第446話 質量流量計のトラブルシューティング その3

マスフローコントローラー(以下MFC)を含む質量流量計の基礎に立ち戻って、その原理から生じるトラブルシューティングに関して解説していきます。

改めて質量流量計の基礎を解説しましょう。
質量流量計に分類される熱式とコリオリ式の流量式をお馴染みの図で解説しますね。
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まず熱式流量計の流量式は Cp=流体の比熱(気体の場合、定圧比熱)を式に用いている事から温度・圧力への依存は一目瞭然です。
例えば窒素の定圧比熱は1気圧=1013hPa(A)条件の場合、0℃で1043J/kg℃であり、50℃でも同値であるが、水素 は0℃:14193J/kg℃→50℃:14403 J/kg℃、アンモニアは0℃:2144J/kg℃→50℃:2181 J/kg℃、メタンが0℃:2181J/kg℃→50℃:2303 J/kg℃等、大きなもので5%を超えるガスもあります。
こういった温度、圧力で比熱の変動幅が大きなガス種に対しては、熱式流量計は条件に応じたコンバージョンファクター(CF)を補正値として採用していて、温度、圧力仕様に応じて一つのガス種でも複数の補正値=マルチCFをメモリーしている事が当たり前になっています。
つまり熱式流量計は、温度、圧力(=密度)に大きな影響を受ける質量流量計だという事になるのです。
質量流量計という言葉から受ける印象とは異なるものなのですね。

これと比べればコリオリ式流量計は、その流量式に一切流体に依存する項目がない点で、流体を問わず測定が可能な流量計だとわかります。
熱式では対応できないであろう流体、例えば物性不明の流体、混合比率、組成が刻々と変化するような流体でも質量流量で正確な流量測定ができるのです。
まさに秤の如しですね。
故にDecoはコリオリ式こそが完全な質量流量計とお話してます。
では、そのコリオリ式流量計に対していかなる温度・圧力の補正は不要かと言われればそうではないのです。
周囲温度に影響を受ける項目として、流量式の中にKs=チューブのバネ定数があるからです。つまりコリオリ式は温度センサーを搭載して温度補正をKsに対して行う必要があるということなのです。
このように質量流量計というものを正確に理解しておくことは重要です。
質量流量は温度圧力の影響受けないが、質量流量計というハードウエア自体はそうではないという事を頭に入れておかないと、質量流量計を使っても正しく計測・測定できないといった事態に見舞われることになるのです。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan


真・MFC千夜一夜物語 第445話 質量流量計のトラブルシューティング その2

マスフローコントローラ(以下MFC)を含む質量流量計の基礎に立ち戻って、その原理から生じるトラブルシューティングに関して解説していきます。

改めて質量流量計の基礎を解説しましょう。
まず流量という言葉の定義からです。
流量とは読んで字のごとく「流れの量」のことでしたね?
気体・液体等の流体が単位時間当たりに、ある地点を通過する量のことです。
単純な流量を知る方法が発見されたのは、古代ローマに遡り、今日までその基本は変わっていません。

人類が流量を測らなくてはならない理由は、まずは使った流量に応じた料金を算出する根拠としてです。
水道料金、ガス料金、ガソリン料金・・・皆そういった性質のものですね?
これが正確に測れていなかったら、公共性が損なわれてしまうのです。
更に近年になってからは工場等で安定した歩留まりで製品を作る為、つまり製造プロセスの再現性向上に流量を正しく測るというファクターが重要視されることになった事も挙げられます。
これはMFCの主要顧客が半導体製造装置である事に関連しています。

流れる流体の流量を現すのに体積流量質量流量という二つの捉え方があります。
体積流量は、流体の断面積に流体の流速を掛ける事で求められましたね?
それに対して質量流量は、その体積流量に流体の密度を掛け合わせて求めます。
流れの多少を現す量を求めるのに体積を用いるか?質量を用いるかの差でなのです。
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 では、流量計とは何だったでしょうか?
流量を計測・測定する目的で使用されるのが流量計でしたね?
そもそも流量自体は圧力のような一つの物理標準で構成されていないので、流れ場を支配する一つ、または複数のパラメータを計って、そこから流量値へ変換するのが流量計の役割です。
故に流体種、流量その他諸条件を満たす流量計を選択することが、正しい流量計測&測定の第一歩なのです。
流量計と名のつくものは多種にわたります。
その中で質量流量計に分類されるのは、熱式とコリオリ式だけです。
 
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質量流量計と体積流量計を比較してみましょう。気体で考えると、その体積は温度の上昇で膨張し、圧力に上昇で縮小します。
体積流量計は校正条件と異なる温度・圧力条件で運用する際は、読値に対して補正が必要となります。
これを計装業界では温圧補正という言葉で表してます。
だが質量流量計には温圧補正は不要です。
いずれが用いやすいかは言うまでもなく質量流量計ですね?
ただしここで勘違いしてはいけない事があります。
「質量流量に温圧補正は必要か?」という問いに対しては不要でよいが、「では、質量流量計に対する温度圧力による補正は不要か?」という問いに対しては必要となることなのです。
 
【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

EZ-Japan(イージージャパン)Deco こと 黒田です。 2014年6月開業です。流体制御機器マスフローコントローラーを中心に”流体制御関連の万(よろず)屋”として情報発信しています。 日本工業出版「計測技術」誌で”マスフロー千夜一夜物語”の連載中です。
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