EZ-Japan BLOG since 2017 真・MFC千夜一夜物語

EZ-Japanブログは、真・MFC千夜一夜物語という流体制御機器=マスフローコントローラ(MFC)の解説記事をメインに、闘病復帰体験、猫達との生活が主なコンテンツです

遅い応答

真・MFC千夜一夜物語 第424話 MFCの応答性能 その6

章を改めて巻線型熱式流量センサーを搭載したマスフローメーター(MFM)の応答がマスフローコントローラー(MFC)のそれよりも決して早くはない理由のお話です。
流体に腐食性ガス、毒性、可燃性ガスが多い半導体製造分野では、やはり流体に非接触である巻線型流量センサーが好まれます。
しかし、流体に直接触れない巻線型は応答性の面で不利な方式です。
巻線型流量センサーを搭載したMFCはどうやって応答性能を向上させたのでしょうか?
前回のお話で、流量信号の応答性を良くする方法を検討しましたが、そもそも応答性能1秒以下などという仕様に到達できる程、熱の移動を捉える熱式流量センサーは速くはなりません。
 そこで考えたのは、先に流量制御バルブを動かし始める方法でした。
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どういう意味かというと、これは当然MFCに限られます。
MFCは入力された流量設定信号(以下S.V.)に基づき流量制御を行います。
原則的には流量信号(以下P.V.)とS.V.が一致するように、流量制御バルブを駆動する操作量(以下M.V.)
を可変させているのですが、P.V.が遅いという条件下ではこれをやっていては、高速流量制御はとてもできないですね?
そこで応答時には少し工夫をします。
具体的にはM.V.の波形を補正するのです。
ここからはDecoの推測した方法です。
(必ずしも全てのMFCメーカーがやっている訳ではありませんし、メーカーにより色々なアプローチもありますので、あくまで一例です。) 
“MFCはPID制御をしている”のが前提ですが、応答時は実はPIDでは制御せず、MVに予めSVを何分割(下図は仮に3分割 50/80/100)したステップを踏ませて立ち上がりを制御させます。

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意図的に流量を流し始める事で実際の熱式流量センサー信号レベルでの立ち上がりよりも速く流量制御を高速でやってのけられるようにしているのです。
当然この芸当はMFMではできません。
だから巻線型熱式流量センサーを搭載したMFMの応答がMFCのそれよりも決して早くはないという現象が生じるのです。
これに関してはPIDシュミレータで同じような制御を行わせる為の波形も作ってもらって検証してありますので、興味を持たれた方は講習会などでDecoに聞いてみて頂いても結構ですよ。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan


真・MFC千夜一夜物語 第423話 MFCの応答性能 その5

章を改めて巻線型熱式流量センサーを搭載したマスフローメーター(MFM)の応答がマスフローコントローラー(MFC)のそれよりも決して早くはない理由のお話です。
流体に腐食性ガス、毒性、可燃性ガスが多い半導体製造分野では、やはり流体に非接触である巻線型流量センサーが好まれます。
しかし、流体に直接触れない巻線型は応答性の面で不利な方式です。
巻線型流量センサーを搭載したMFCはどうやって応答性能を向上させたのでしょうか?

下図のように実際の流量に対して、巻線型流量センサーのブリッジ回路から得られる生の信号は遅れて出力されます。(あくまで遅れのイメージを説明する為の図ですので、あえて実流量を理想的なステップ応答波形にしていますが、実際はガスではそうなりません。)
この流量信号を用いて設定信号と比較し、流量制御バルブ開度の制御を行えば当然制御が遅れる事になります。
応答性の1秒以内とかいうのは夢の世界なのです。
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このままではよろしくないので、センサー信号に図のような微分信号を加味する方法が考案されました。
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これによりセンサーの応答性は若干改善されるのですが、半導体製造装置、特にエッチャー等で要求された高速応答と言うレベルには至りません。
応答が遅いというのは、流量制御ではただ単にガスの導入が遅れるだけではなく、下手すると過大なガスが流れてしまっているのに、流量制御が間に合わず、そのまま放置してしまいかねないので危険です。
そこで考えられたのが、前回の解説で登場した図なのです。

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【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

真・MFC千夜一夜物語 第422話 MFCの応答性能 その4

巻線型熱式流量センサーを搭載したマスフローメーター(MFM)の応答がマスフローコントローラー(MFC)のそれよりも決して早くはない理由のお話です。
前回は流体に直接接触するMEMS型は感度が良く応答が速いというお話と、それでもMFCのメイン市場である半導体製造装置では採用しづらい理由を解説しました。

流体に腐食性ガス、毒性、可燃性ガスが多い半導体製造分野では、やはり旧来のセンサーが流体に非接触である巻線型が好まれるのですが、だからといってその応答性能に満足されていたかと言えばそうではありませんでした。
では、巻線型流量センサーを搭載したMFCはどうやって応答性能を向上させたのでしょうか?
実はこの部分が今回のお話の巻線型熱式流量センサーを搭載したMFMの応答がMFCのそれよりも決して早くはない理由と密接に絡んでくるのです。
以前、MFMとMFCの応答がどのような構成であるかを図で御説明したかと思います。
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この図にあるように、MFMは流量センサーだけで構成されますので、熱の移動を流量に変換して流量信号として出力するだけです。
それに対してMFCはその流量信号を用いて、設定信号と比較し、流量制御バルブ開度の制御を行った結果、流量が制御されるのですから、どう解釈してもこの2つの図を比較する限りは、MFMの応答がMFCより遅い訳はありません。
確かにこの図ではそうなのですが、ではMFCで以下の動きがあったとしたらどうでしょう? 
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「えっ?それって流量信号が出力される前にバルブが動いているってこと?そんなことできるの?」と、思いますよね?
それができるんです。
次回からその仕組みをお話ししましょう。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan

真・MFC千夜一夜物語 第419話 MFCの応答性能 その1

章を改めて巻線型熱式流量センサーを搭載したマスフローメーター(MFM)の応答がマスフローコントローラー(MFC)のそれよりも決して速くはならない理由のお話です。

熱の移動を流量検出原理とする熱式流量計とはどういったものだったか?おさらいしましょう。
巻線型であろうとMEMS型であろうと、熱式流量計の流量式は以下になっていましたね?

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簡単に言えば、流れ込んできた流体が奪う熱量は、その流量と比例関係にあるといものでした。その点では巻線型もMEMSも差はありません。
というか、そもそも巻線型熱式流量計をMEMS技術で置き換えたのがMEMS型と言えるので、これは当たり前のことです。

ところがこの両者に決定的な構造の差があります。
図にありますように巻線型がセンサーチューブの外周に細径のニクロム線を巻く事で、ヒーター及び測温抵抗体として使用しているのに対して、MEMSは接ガス面にシリコンのダイヤフラムを形成して、そこにヒーターと測温抵抗体を形成しています。
つまり、測定対象の流体に対して巻線型は非接触なのに対して、MEMS型は接触しているのです。
これはセンサーの感度にとって大きな差となります。
よく講習会では、「お湯の熱さを計る際に素手の場合と、厚手のゴム手袋をした場合の違い」という説明をして納得いただいています。
この例えでわかるように、たとえ0.35mm径のSUSチューブであったとしても、流体が非接触な状態で熱の移動を測るという事は、感度的には非常に不利になります。
このようにまず同じ熱式でも、非接触タイプの巻線型と接触タイプのMEMS型ではセンサーの感度に対しては大きな差が生じるのでした。

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真・MFC千夜一夜物語 第418話 マスフローに関する誤解 その9

Decoが見聞してきた中で、マスフローメーター(MFM)マスフローコントローラー(MFC)の使用方法に関して、一般的に大きな誤解があるなぁと思ったものを取り上げてお話ししていきたいと思います。
最後のお話はMFCとMFMの応答性に関してです。
「MFCとMFMでは当然MFMの応答が速いですよね?」という質問を貰う事があります。
これに関してDecoはNoと答えさせて頂いてます。

この時、質問者からは必ずこういったリアクションをもらいます。
「ちょっと待って下さい。どう考えても流量制御をしない分、MFMの反応が速くなくてはおかしいじゃないですか?」
「Decoさんが説明に使うMFMとMFCの動作チャート(下図)でもそう受け取れる説明をされてますよ!」と、問い詰められたこともあります。

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MFMは流量センサーでの熱の移動を流量へ換算して、流量出力(P.V.)として出力しているだけなのに対して、MFCでは設定信号(S.V.)とP.V.を比較して、流量制御バルブの開度を調整する操作量(M.V.)を決定して、流量制御を行うという動作が付け加わるのですから、どう考えてもP.V.を出力した段階でMFMの応答性の方が早い筈ではないのか?となりますね。

しかしながら熱式、しかも巻線型分流方式に限った場合、実は必ずしもそうではないのです。
それは熱式流量センサー自体が、熱の移動を捉えて流量信号に変換するという特性に関わっています。
熱の移動という現象は、そもそも早くはならないからなのです。
ヤカンを火にかけてお湯を沸かすのには時間がかかりますよね?
これは火に掛けたヤカンの金属材料と水の熱伝導率と熱容量に起因しています。
MEMS型のように直接流体に接触するタイプの熱式センサーはまだよいのですが、巻線型のようにSUSチューブの外周にニクロム線を巻いて発熱させている場合、流体はあくまでSUSチューブを介して熱を受け取っている事になります。
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そもそも熱の伝導が遅いのに、更に間接的に熱の受け渡しをやっていては、これは更に遅くなっても当たりまえです。

実際流量センサーの生の応答は、数秒かかってしまいます。
「うむ?流量センサーの信号=MFMの応答信号が数秒かかるのに、なぜ今のMFCは1秒以下の高速応答を謳えているの?」と思いませんでしたか?
実はここがMFC最大の謎なのです。
このお話は長くなるので、章を改めて解説しようと思います。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan


EZ-Japan(イージージャパン)Deco こと 黒田です。 2014年6月開業です。流体制御機器マスフローコントローラーを中心に”流体制御関連の万(よろず)屋”として情報発信しています。 日本工業出版「計測技術」誌で”マスフロー千夜一夜物語”の連載中です。
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