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CF

真・MFC千夜一夜物語 第456話 コンバージョンファクターという曲者 その6

マスフローコントローラー(以下MFC)やマスフローメーター(以下MFM)でよく使われる言葉に、コンバージョンファクター(以下CF)という言葉がありますね。

熱式以外の方式にCFは存在するのか?

では他の流量測定方式でCFは存在するのでしょうか?
まずこの章の最初に説明した通り、熱式流量計と同じく質量流量計に分類されるコリオリ式にはCFは存在しません。
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これは上図右のコリオリ式の流量式を見れば一目瞭然です。
流量式に熱式でいう比熱のような流体種に依存する項目が無いのです。
コリオリ式は流体の物性が不明でも、混合比率が刻々と変化しても流体の質量流力を測定できる完全な質量流量計と言えるのです。
同じ質量流量計でも流体固有の物性に左右される熱式とは、大きく異なるのです。
故にCFは存在しないと言いきれます。
ただ、環境条件でチューブのバネ定数は温度変化に影響を受けるので、そういった意味で補正は必要です。
でも、それはコリオリ式流量計内部で温度補償として完結しているので、CFとして捉える必要はありません。
熱式の場合、温度、圧力が流体の比熱に影響を及ぼすから、CFとして管理する必要があるのですから。
次に昨今増えている圧力式MFCはどうでしようか?
そもそも圧力センサーを用いて、流量を求めるという方式は、実はかなり古くから存在していて、差圧式流量計と分類されています。
差圧式流量計の代表的な原理は、絞り式とピトー管式、そして層流式に分類されます。
その中で取り上げられることが多い層流式にフォーカスしてみましょう。
流量式を図で示します。
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層流式流量計は、層流素子である細管を流れる層流状態の流体流量を細管の上下流の圧力差から算出する方式で、検出原理には、ハーゲン・ポアズイユ流れの定理が用いられています。
「配管内が層流であるという条件下で、配管抵抗と流体の粘性により配管流路の両端に発生する差圧P1-P2は、流体の体積流量に比例する」というのが層流式流量計の基本原理です。
ハーゲン・ポアズイユの定理に従って記載すると、「体積流量は、配管半径の4乗に比例し、配管入口圧-出口圧=差圧に比例し、配管長さに反比例し、流体の粘性に反比例する」となります。
ハーゲン・ポアズイユの流れとは、まさに層流状態の流れを示すので、層流式流量計と称されるのです。
CFの有無に関する結論は、既にこの検出原理の解説に記されていました。
熱式が流体の比熱に影響を受けるのに対して、層流式は流体の粘性の影響を受けるのです。
つまり層流式にもCFは存在しているのです。
そして気体の粘性を特定するには、流量センサーを通過する温度、圧力条件下での流体の密度を把握しなくてはいけません。
コリオリ式センサーを使えば密度はリアルタイムで把握できるますが、それではコリオリ式で流量を測ればいい事になってしまいますよね?
その為、半導体製造用等の特殊なガスの場合、熱式と同様のPVTt法などでCFを求めていく事が必要となるのでした。
 
【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan


真・MFC千夜一夜物語 第455話 コンバージョンファクターという曲者 その5

マスフローコントローラー(以下MFC)やマスフローメーター(以下MFM)でよく使われる言葉に、コンバージョンファクター(以下CF)という言葉がありますね。

ガス種によってはCFが環境条件で変動するものがあります。
有名な例としてフッ化水素(HF)があげられます。
Deco自身、HFが流体温度の変化に伴いCFが約3倍変化するという試験結果を見たことがあります。
100℃近い温度にするとCFはほぼ1で安定するのですが、常温近辺では0.3~0.4程度であり、100℃までの間はHFの重合状態により、CFはどんどん1に近づくカーブを描いて変化していきました。
こういった特殊な流体に対して固定したCF一つで対応するのは難しいと思いませんか?

HFは極端な例としても、CFが1から離れた値にある六フッ化タングステン(WF6)や三塩化ホウ素(BCl3)のように一時期の半導体製造プロセスにおけるCVDやエッチャーでのキーとなったガス種でも似たような傾向がありました。
温度を固定したある流量レンジのマスフローの100~2%の制御レンジ内においても100%近辺と、10~20%レベルでCFが異なる現象(つまり1つのCFでは直線性が維持できないという現象)も確認されており、大きな問題となったこともあったのです。

こういった問題は物性からの計算値のみでCFを求めることや、一つのCFで全ての流量レンジをカバーする事が難しいことを表しており、MFCメーカーでは厄介なガス種に関しては実ガスデータを取った上で、それをCFとして併用するような動きが見られました。
当然前述の危険なガス種で実ガス校正は行えないので、あらかじめメーカーのラボで実ガスを流し得られたデータからCFを設定するという方法となります。
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多くの場合、それには定積法PVTt法)を用います。
このブログでもお馴染みになった真空ポンプで真空排気後、ポンプ側ラインを遮断したチャンバーへMFCで窒素ガスを導入する際の圧力上昇速度と実ガスのそれを比較することで、流量比を算出する方法ですね。
各々のガスに対して使用するMFCは1種、流量設定値は同じに固定します。
真空計でチャンバー内圧上昇をモニターし、その所要時間を比較する。要はチャンバーをガスで満たされるまでの時間を測定する訳です。
チャンバー容積が一定である限り、導入されたガスの流量比率は、そのままある圧力に到達する時間で判定できるのです。
ここで気をつけなくてはいけないのはチャンバーの温度です。
恒温槽でチャンバー周囲温度を一定に管理し、尚且つ流入するガスでチャンバーが冷却されないよう、ガス自体もヒートエクスチェンジャー等で予熱するなどの工夫が必要となります。
この温度管理がPVTt法の最重要項目です。
これをしっかり押さえないと得られた結果が全く無意味になってしまうのです。

近年マスフローの制御系がデジタル化し、メモリーを搭載した製品が増加したことから、単一のCFで管理する手法から、マルチCFへと進化が始まりました。
マルチガスマルチレンジMGMR)を謳うマスフローのほとんどが、メーカーで窒素vs実ガスのデータベースを構築した結果産まれたものです。
微少流量から大流量まで各々のレンジで基準となるMFC複数種に対して、実ガスデータをPVTt法等で採取し、必要に応じて1ガスに対して複数のCFデータをメモリーさせ、マルチCF化(多点補正)することで、実ガス校正に近い流量計測、制御を可能にする技術です。
ただしデータベース構築にかかる設備、人員、時間の投資は莫大であり、メーカーの負担が大きい事が問題になります。
リーマンショック後の半導体産業の設備投資縮小によりマスフローメーカーの統合が進んだ背景には、こういった新しいテクノロジーへ対応していく為に必要なリソースの枯渇も無視できない要素だったのです。

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真・MFC千夜一夜物語 第454話 コンバージョンファクターという曲者 その4

マスフローコントローラー(以下MFC)やマスフローメーター(以下MFM)でよく使われる言葉に、コンバージョンファクター(以下CF)という言葉がありますね。
 
実ガス法に対してCFを用いて、標準とするガスに対して各種流体に応じた流量換算補正を行うことで運用するのがコンバージョンファクター法です。
CF法では、標準ガスを窒素にする事が多いです。
これは比較的調達が簡単で、機器や人体に無害であること選ばれていると推察します。
窒素CF=1.0というセンター値にした場合の、各ガスの流量比を係数化すると、だいたい1.4から0.1以下までの範囲で分布する形となります。
CFが1.0より大きなガスの代表例はヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)のような単原子ガスです。
そして、窒素に近いのは空気、酸素(O2)、水素(H2)、フッ素(F2)。
逆に小さいものは、二酸化炭素(CO2)、六フッ化硫黄(SF6)、四塩化ケイ素(SiCl4)等が挙げられます。
CFが小さい流体の特長は、全体的に窒素より分子量が大きく、中には沸点が常温以下で、ボンベから負圧供給される六フッ化タングステン(WF6)のようなものもあります。

マスフローの実務をやっていると、よく「窒素用のマスフローに別のガスを流したら流量はどうなるの?」といった類の、流体の違いによる流量読み替えに関する質問を貰う事があります。
例えば窒素用マスフローにHeを流したとしたら、実際流れる流量は窒素より多く流れます。
その流量は、マスフローからの表示流量×(HeのCF÷N2のCF)で求められます。
これを導き出すためにはHeのCFを確認する必要があるのですが、ここで問題になるのが「CFは、全てのマスフローに対して共通規格化された係数ではない」ということなのです。

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熱式流量計の式のC:補正係数が関わる要素であり、マスフローメーカー間でだけ異なるだけではなく、同じメーカーでも型式により異なる場合もあります。
採用している熱式センサーの方式の違いや、層流素子の有無、更に層流素子が存在する場合は流量の大小による層流素子の構造差、圧力条件による分流比の変化等々・・・種々の理由が存在しており、業界共通で「1ガスに1CF」を統一採用するのは難しい状況です。
図では一例として、同じガスAを使用する同じメーカー品の場合の、窒素vs実ガスの極端な例を示しました。(あくまで説明のための図であり、特定のメーカー、ガス種に適用される事例ではありません。)
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真・MFC千夜一夜物語 第453話 コンバージョンファクターという曲者 その3

マスフローコントローラー(MFC)やマスフローメーターMFM)でよく使われる言葉に、コンバージョンファクター(CF)という言葉があります。

前回、熱式流量計の場合、CFとは流体各々の熱を運ぶ能力の比を表した係数であるという解説をさせて頂きました。
このCFはメーカーが熱式MFCやMFMを製造する際に、顧客の使用する各種流体に対応する校正ガスでの値付けを行う場面で用いられています。
図でその大別を示します。
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一番シンプルにして、確実な方法は測定対象となるガス=実ガスでMFCやMFMへの値付けを行う実ガス法です。
理想的に思える実ガス法ですが、問題があります。
まずは実際に製品やその製造設備に流すことが憚られるような流体が存在することです。
これは腐食性や自然発火性、毒性を有すガスを流すことのリスクですね。
マスフローのメイン需要先である半導体プロセスでは、塩素(Cl2)、モノシラン(SiH4)、ホスフィン(PH3)等に代表される危険な流体が使用される割合が非常に高い為、なおさらです。
そして次には多種多様な実ガスの供給設備とそれらと対になる除害処理設備を整える事への設備投資の負担です。
余談ですが、実ガス法が行われている例として、体積流量計の一つ面積式流量計にガラスのテーパー管に玉(=フロート)が浮くフロート式流量計というものがあります。
電源も要らず、配管に取り付ければ、ガスの流れに応じてフロートが指し示す目盛りを読み取れる簡易さが重宝されています。
その測定の仕組みは図を参下さい。
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英語名は Variable Area Flowmeter で、この和約“可変面積式流量計”の方が、その流量測定原理がわかりやすいかと思います。
下から上に向かって広がった透明なテーパー管の中にフロートがあり、このフロートは流れに押されて上方に動きます。
フロートが上昇するにつれて、テーパー管の内壁とフロートの間のギャップが拡大するので、流体が抜け出る量が増え、その分フロートを押し上げる力が弱くなり、最後にフロートはその押上げ力と重さがバランスした位置で止まります。
この位置が流量を表すのです。
簡便さや電源が不要な事から今でも重宝されている流量計です。
逆にその簡単な構造から流量精度に関しては軽視されがちなフロート式流量計ですが、一部の安価なグレードを除き実ガス校正が行われており、フロートが示す位置に目盛りを刻みつける製造手法を取っています。
そういったフロート式流量計は、製品ロットにより最大目盛側と最少目盛側の目盛位置に差が生じることもあります。
これは製造時の器差でずれて刻印されているのではなく、器差を踏まえてちゃんと実ガスで目盛を切っている証なのです。
そしてこのブログでも何度か解説していますが、体積流量計は「温度・圧力補正」を適切に行いさえすれば、正確なガス測定ができる事がわかっています。


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真・MFC千夜一夜物語 第452話 コンバージョンファクターという曲者 その2

マスフローコントローラー(以下MFC)やマスフローメーター(以下MFM)でよく使われる言葉に、コンバージョンファクター(以下CF)という言葉がありますね。

よくマスフローの講習会で解説する際には、流体の物性を「流体が熱を運ぶ能力」と置き換えて簡単な例え話にしています。
流体を人間に喩えるなら、筋肉隆々の力持ちL、小柄で痩せたS、そして中肉中背平均的な体格のMと3人で荷運びの仕事をしているとします。(それぞれの運ぶのに必要な力の強さは見掛け通りとします。)
軽々と箱を3つ抱えて運んでいけるLに対し、Sは同じ大きさ、重さの箱を1個抱えるのがやっと。そして、Mは2個なら運べる・・・この3人が同じ回数運べば、当然たくさん運べるのはLになります。
SがLと同じ量を運ぶためには、Lの3倍行き来しなくてはいけませんね?

熱式流量計のセンサーでも同じ光景が起きています。
熱=同じ重さの箱、流体=運び手と考えて下さい。
流体にも熱をたくさん運べるガスと、そうでないガスがいます。
その能力を表すのが定圧比熱です。
流体のSもまた力持ちのLと同じ熱量を運ぶためには、Lの3倍流さないといけない=3倍の流量が必要になるのです。
このように熱式流量センサーは、流体固有の物性に応じて熱を運ぶ能力に差が生じる事に着目しながら「移動した熱量から、流体がどれだけ流れたか?」を導き出すのがポイントなのです。
 
熱式流量計の測定対象流体は気体の場合が多いです。
気体では圧力条件のよるエンタルピーの変化量が大きい為に定圧比熱を用いています。
熱式流量計を質量流量計として機能させるためには、流体種を固定する=定圧比熱を正確に求めないといけません。
窒素の定圧比熱は1気圧=1013hPa(A)条件の場合、0℃で1043J/kg℃であり、50℃でも同値です。
それに対して水素(0℃:14193J/kg℃→50℃:14403 J/kg℃)、二酸化炭素(0℃:829J/kg℃→50℃:875 J/kg℃)、アンモニア(0℃:2144J/kg℃→50℃:2181 J/kg℃)、メタン(0℃:2181J/kg℃→50℃:2303 J/kg℃)等、大きなもので5%を超えるガスもあります。

ブロンコスト(Bronkhorst High-Tech B.V.)が公開しているCFのデータベースとして“FLUIDAT on the Net”というツールを良くこのブログではご紹介しています。
ブロンコストは自社のMFC向けに測定した実ガスデータに基づいたデータベースを使って、デジタルMFCの特長を活かしたマルチCFで実ガスとの流量差を少なくする試みを早い時期から取り組んでいて、その貴重なデータをネット上で会員に公開しているのです。
この取り組みの先進性と公共性は素晴らしいとDecoは考えています
このツールで試しにメタンガスの0℃と50℃条件でのCF計算を行い、結果を比較してみましょう。
FLUIDATの操作は簡単であり、実ガス“Fluid from”にメタン=CH4(“Methane”)を、校正基準とする流体として“Fluid to”で窒素=N2を選択し、各々の条件を入れます。
メタンの流体温度を0℃と50℃、窒素の流体温度は20℃固定として、その流量を100SCCM=mln/min(Normal:ノルマル)、すなわち 0℃ 1013hPa(A)の体積流量に換算して出力させたところ、その結果CFは0℃で  0.8071@100%FSに対して、50℃では0.7504@100%FSまで変化しました。
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FS100SCCMに対して約5%の差は、マスフローのカタログ仕様上で、繰り返し性や精度を議論している場合ではないと思えるくらいの大きな差ですね?
このようなガスは温度差ΔT/定圧比熱Cpという流量式に対し、更に流体温度による補正が必要ということがわかります。

*もちろんFLUIDATの結果はブロンコスト製MFC/MFMでの値ですから、お手持ちの他メーカー品ではそのままズバリは当てはまりません。
 
【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan


EZ-Japan(イージージャパン)Deco こと 黒田です。 2014年6月開業です。流体制御機器マスフローコントローラーを中心に”流体制御関連の万(よろず)屋”として情報発信しています。 日本工業出版「計測技術」誌で”マスフロー千夜一夜物語”の連載中です。
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